エンタメ公演トラブル「金返せ」はどこまで可能か 帝劇「ジョジョ」の公演中止で気になる返金の条件
こうした謝罪も異例中の異例だ。そもそもなぜこのような事態になったのか。東宝はその理由を詳しくは説明していないが、演出が複雑で「スタッフ・キャストの安全確保の観点から」中止したと述べている。
演出上危険が伴うのは舞台装置の利用である。大劇場の装置は大掛かりで、帝劇の場合、直径16メートルほどの廻り舞台があり、その中には大小4つのセリ(役者や大道具などの昇降装置)がある。構造物としては高さ22メートル、地上1階から地下6階までを貫くという。
演出によってはワイヤーによるフライングもあるし、大道具を移動させての場面転換もある。一歩間違えれば大事故につながる。殺陣(たて)も手順を間違えたら危険だ。当然、準備・稽古は周到に行う必要がある。
ここ10年ほどでも大きな事故が起きている。2017年10月に新橋演舞場での「スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース」に出演していた市川猿之助が花道にある“すっぽん”と呼ばれるセリで姿を消す瞬間に衣装の左袖が装置に巻き込まれ、骨が皮膚を突き破る左腕開放骨折の重傷を負った。2012年8月には市川染五郎(現・松本幸四郎)が国立劇場での舞踊公演中にセリから約3メートル下の奈落に転落し、右側頭部等を強打した。かなり出血し、最悪の事態を覚悟したほどだったという。
「ジョジョ」の演出上の問題については明らかではないが、公演中に人身事故でもあれば取り返しはつかない。準備不足はお粗末であるが、その社会的批判や交通費・宿泊費を含む金銭的な補償を覚悟しての東宝の中止の決断は評価してよいだろう。
ほかに返金されたケースとは
一般に興行の中止等での返金条件はどのようなものなのだろうか。通常は、観劇券の裏に書いてある規約(約款)では公演の中止の場合のみ返金し、その他の場合は、配役や演出の変更等があった場合も含めて一切返金しないとしている。これについて実際のケースをみてみよう。
最近では2023年10月の水戸での山崎まさよしのコンサートで、山崎が「今日はあまり歌いたくない」などと言って、長話を続け、数曲しか歌わなかったことで観客のクレームが殺到し、所属事務所が返金対応をした事例がある。法律的な契約論でいえば、山崎のこうした態度が「債務不履行」(契約上の約束を果たさないこと)に該当するか否かだが、同事務所は「当初予定していた内容と異なる公演」になったとして返金を行った。
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