エンタメ公演トラブル「金返せ」はどこまで可能か 帝劇「ジョジョ」の公演中止で気になる返金の条件

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筆者自身の経験だが、2023年の明治座創業150年記念の公演で2回トラブルに遭遇した。1回目は、5月の市川猿之助奮闘歌舞伎公演だ。メディアを騒がせた猿之助自殺未遂事件での主役の突然の降板だ。

夜の部・「御贔屓繫馬」(ごひいきつなぎうま)は事件当日から中村隼人が代役を務めた。隼人は公演日程終盤に猿之助に代わって主役を務める予定だったため素早い対応が可能だった。昼の部・歌舞伎スペクタクル「不死鳥よ 波濤を越えて―平家物語異聞―」はわずか事件日の2日後から猿之助の甥にあたる市川團子が主役・平知盛を演じた。

公演が代役で開演された場合は、規約上は返金されないが、さすがに「猿之助奮闘歌舞伎公演」で猿之助が出演しないことは問題と考えたのであろう。明治座は希望者への返金に応じた。ただし、当日に代役を務めた隼人、19歳の若さで47歳のベテラン猿之助の代役をわずかの稽古期間で務めた團子に注目が集まり、むしろ観客が殺到した。

突然のトラブルでメディア関係者も集まった明治座・猿之助公演(筆者撮影)

主演者の体調不良で内容が一部変更

2回目は6月の水谷千重子50周年記念公演だ。水谷千重子(友近)が主演の2部構成の公演で、第1部はお芝居ステージ「大江戸混戦物語 ニンジャーゾーン」で、第2部は歌謡ステージ「千重子オンステージ」だった。しかし、水谷が風邪ゆえか声がれとなり、かなりのハスキーボイスとなっていた。それでも第1部の芝居はほぼ通常通りに続けられた。

問題は第2部の歌謡ステージで、幕間に公演内容の一部変更があるとアナウンスされたが、実際にはまったくの別物と言ってよいほどで、水谷はほとんど歌わず、そのためバンドのメンバーはまったく舞台に現れず、急遽しつらえられた共演者とのトークショーで終わってしまったが、返金等の提示はまったくなかった(個別に苦情を言えば対応されたのかはわからない)。

最近では、2月、3月に新橋演舞場で上演中の「ヤマトタケル」で市川團子が高熱を出し、2月9日から数日間、團子は休演したが、公演自体は続けられた。この公演は中村隼人と團子の主役「ヤマトタケル」の交互出演であったが、團子が演じる予定の回は、隼人主演で演じられた。したがって、この場合も公演中止ではないので、規約上返金の対象ではなく、興行主の松竹からも返金対応の提示はなかった。

しかし、交互出演の公演は双方の役者を見比べたいということで、両方の公演チケットを入手している観客もいるし、またそうしたことを期待して興行主も交互出演としていることもあるだろう。筆者自身も双方を観劇した。その場合、観客からすれば返金や振り替えに応じてほしいと思うのは当然だ。松竹はそうした申し出をした観客には対応をしたようである。

以上のように規約上は公演の中止以外に返金はせず、返金の場合もチケットの額面だけということになっているが、興行主も客商売だ。規約(約款)上の法的責任(消費者契約法上、規約の有効性について検討の余地はある)を超えて、補償等の対応をする場合がある。こうしたトラブルにあったらはじめから諦めずに、まずは興行主、劇場側に対応を求めてもよいだろう。

細川 幸一 日本女子大学元教授

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ほそかわ こういち / Koichi Hosokawa

専門は消費者政策、企業の社会的責任(CSR)。一橋大学博士(法学)。内閣府消費者委員会委員、埼玉県消費生活審議会会長代行、東京都消費生活対策審議会委員等を歴任。著書に『新版 大学生が知っておきたい 消費生活と法律』、『第2版 大学生が知っておきたい生活のなかの法律』(いずれも慶應義塾大学出版会)等がある。2021年に消費者保護活動の功績により内閣総理大臣表彰。歌舞伎を中心に観劇歴40年。自ら長唄三味線、沖縄三線をたしなむ。

 

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