当時の私のように、序列のなかの役割に自分を同化してしまうとどうなるか。
自分が成し遂げたことが適切に評価されていないと感じるたびにイライラする。
周囲と感情的な距離を置き、どんな犠牲を払ってでも弱さを見せないという働き方になり、孤独や虚しさに苛まれる。
昇進や表彰は誇らしかったが、本当に大切な何かが私には欠けていた。
2つ目のモーターは存在しなかった
私のキャリアは、思いがけず遠回りを強いられた。
原子力潜水艦「サンタフェ」の艦長が急に辞任し、突如として私がその後任を務めることになったのだ。当時サンタフェは士気もパフォーマンスも低い艦として有名で、艦隊の笑いものとなっていた。
通常なら、リーダーとしての力量を証明しにかかるところだが、それはあくまでも、その艦について把握している場合の話だ。
実際には、私はそれまでの12カ月間、別の潜水艦を引き継ぐ準備をしていた。つまり、サンタフェについて何もわからない状態で、艦長に就いたのだ。
海に出た初日、乗員も私も互いを品定めしていた。私は本能的に艦長という役割に同化し、身体に染みついている行動をとってしまった。そう、乗員に命令を与え、その命令に従わせた。
私は2つ目のモーターを稼働させろと命じた。だが、サンタフェはモーターがひとつしかない艦なので、その命令は技術的に実行できない。
命令を受けた士官は直ちに「2つ目のモーター稼働」と復唱したが、その命令は無意味だと彼はわかっていた。そしてやる気なく肩をすくめると、その命令を実行に移せと指示を出し、私の間違いはみなの知るところとなった。
この瞬間、私の人生が変わった。
今回のような明らかなミスをしでかしたとき、艦の士官がそれを指摘してくれると信頼できなければ、どうなるだろうか。誤って人を殺しかねないし、自分たちの命すら危うい。
私は、この状況をどうにかする必要があった。
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