すでに町内にある薬局のうち数カ所は被災しながらも営業を始めていた。市の中心部にある公立宇出津病院も混乱のなかで診療を続けている。
「引き上げることも念頭に考えます」と高橋氏。
その言葉を聞いて、MPの生みの親である山田常務理事の話を思い出した。「MPの任務は現場の薬局が立ち上がるまでの間のつなぎなんです。支援の仕方によっては、復興の妨げになってしまう」。
難しい「引き上げ」の判断
だが、1月13日になって輪島への転戦が決まった。孤立していた地域に自衛隊の車両で医師が入り、持ち帰った処方箋をもとに調剤した医薬品を、今度は薬剤師が自衛隊の車両で患者に届けた。
災害時に医薬品の供給は欠かせない。だが、被災者のニーズと地元の病院や診療所、薬局との兼ね合いで、「引き上げ」の判断も難しい。
筆者には、忘れられない場面がある。珠洲市で岐阜県のMPに密着したときのことだ。市立直小学校で、腰の曲がった70代の女性患者が、申し訳なさそうに山田医師に打ち明けた。
「白内障の目薬が、もうじきなくなってしまう。眼医者さんも被災してやってないんです」
そう言って、持っていた「ピレノキシン点眼液」を見せる。山田医師が薬剤師の林教授を見やる。
林教授は「今はありませんが、発注をかけましょうか」と提案する。山田医師が女性患者に「明日か遅くとも明後日には届けてくれるから」と伝えると、不安そうな患者の表情がパッと明るくなり、口を手で押さえて涙をためる。「助かる! ホッとしました」。
極寒の地で、家を追われて途方に暮れる被災者にとっては、されど点眼薬なのだ。
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