生活保護費を根こそぎ奪う「貧困ビジネス」の実態 役所は知らん顔、見過ごせない「行政の不作為」

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家具・家電購入などに関する契約金明細書(右)と敷金などの支払同意書(左)。明細書には敷金「0円」と書かれているのに、同意書では敷金を払うことになっている。業者からはこれらの書類は役所に見せないようくぎを刺されたという(筆者撮影)

案の定、搾取はこれで終わりではなかった。今度は、毎月1万円、10カ月にわたって計10万円を支払うよう書かれた「保証会社初回保証料・敷金支払同意書」へのサインを求められたのだ。先に契約させられた家具・家電費や共益費7000円をなど差し引くと、生活保護費は2万円も残らない。

それでも路上生活よりはましだと思ったソウマさんは再びサイン。スタッフからは「この書類は役所には見せないように」と口止めされたという。ソウマさんは「(業者のホームページには)『生活保護申請のサポートをします』『入居時0円で新生活がスタートできます』と書かれていたのに、実際は全然話が違いました」と訴える。

不動産業者の入り口に設置された看板。生活保護利用者向けに「入居時総額0円」とうたいながら、実際には保証料や敷金などが請求される(筆者撮影)

その後、連れていかれたのは築40年近い木造アパート。家賃は生活保護の住宅扶助費の上限と同じ4万6000円だった。しかし、後になって同じタイプの部屋の一般向け家賃が約2万9000円であることもわかったという。

新型コロナウイルスの感染拡大以降、住まいのない生活困窮者を郊外の不人気物件などに割高な家賃で入居させたうえで生活保護を申請させ、いろいろな名目で保護費を巻き上げる「貧困ビジネス」が増えている。支援団体のひとつ一般社団法人「反貧困ネットワーク」によると、今年の相談件数は約30件で昨年の5倍にのぼるという。

悪質な無料低額宿泊所に入居させられた

実は、ソウマさんはこの直前にも同様の貧困ビジネスの被害に遭っている。

場所は東京23区。クレジットカードのキャッシングで借金をしながら仕事を探していたものの、半年余りに及ぶネットカフェ暮らしで所持金が底を尽きかけた。スマホで「生活保護」と検索したところ、「初期費用0で部屋が見つかる」「生活用品を無料支給」などとうたう一般社団法人を見つけたので、連絡を取ったという。

ところが、郊外のアパートに連れていかれ、生活保護を申請したまではよかったものの、その後、法人の車両でアパートまで移動した際の費用として1万6000円、布団代2万円、家電セット3万円、米や乾麺などの食料代1万6500円を取り立てられそうになった。これでは生活保護費が支給されても1銭も残らないどころか、マイナスになってしまう。

「一般社団法人というからなんとなく安心していたのですが、すぐに相当やばいところだとわかりました」

ソウマさんはなぜ何度も貧困ビジネスの被害に遭ったのか。生活保護を利用するなら、なぜ直接自治体の福祉事務所へ出向かなかったのか。

このような新手の貧困ビジネスの被害者には、ある共通の経験があることが多い。過去に生活保護を利用した際、福祉事務所から悪質な無料低額宿泊所(無低)になかば強制的に入居させられているのだ。

無低とは社会福祉法に基づく民間の宿泊施設。一部に住環境が劣悪だったり、粗末な食事に対して割高な食費を徴収したりする悪質な無低もある。生活保護費のほとんどを巻き上げられ、毎月数千円から3万円ほどしか残らないというケースも珍しくない。

東京の下町で生まれ育ったソウマさんはスポーツ推薦で高校に進学。しかし、その部活で激しい体罰に遭い、退部と同時に高校も辞めた。その後はトラックドライバーをしたり、建設現場で働いたりしたものの、リーマンショックのころに失業。住まいも失い、東京都内の福祉事務所で初めて生活保護を利用した。

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