生活保護費を根こそぎ奪う「貧困ビジネス」の実態 役所は知らん顔、見過ごせない「行政の不作為」

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冒頭の千葉の福祉事務所にいたっては、職員のほうから不動産業者のことを「悪徳だよ」と忠告してきた。しかし、ソウマさんが10万円もの保証会社初回保証料や敷金を徴収するのはおかしいのではと訴えると、「払ってください。皆さん払ってるんで」と突き放されたという。別の機会に管理職にあたる職員とも話をしたが「厚生労働省からなにかしらの通知でもあれば動けるのですが……」とお茶を濁された。

結局、悪質無低や貧困ビジネス業者に対してなにかしらのアクションを起こしてくれる職員はただの1人もいなかったという。行政側が生活保護申請者を直接送り込む無低と、行政側が搾取の手口を知りながら黙認する貧困ビジネスというスキームの違いはあれど、問題の根底にあるのはいずれも「行政の不作為」である。

ちなみにソウマさんは悪質無低をたらい回しにされたとき以外は何かしらの仕事に就いてきた。しかし、そのほとんどは賃金水準も低く、不安定な働かされ方だった。福祉施設の送迎ドライバーとして10年近く働いたときなどは、待機に当たる「手待ち時間」がすべて無給扱いだったので、給与は最後まで生活保護水準以下。住まいが社員寮扱いで仕事を失うと当時に路上に放り出されることもあった。

ソウマさんが紹介された木造アパート。家賃は生活保護の住宅扶助費の上限と同じ4万6000円だったが、後になって同じタイプの部屋の一般向け家賃が約2万9000円であることがわかったという(筆者撮影)

「公助」はだんまりを決め込んだまま

ソウマさんが生活困窮状態に陥った背景には、こうした雇用政策の貧困や住まいの貧困といった構造的な問題が少なからずある。その結果、生活保護を利用することになり、悪質無低や貧困ビジネス業者の食い物にされているのに、「公助」はだんまりを決め込んだまま。ソウマさんは「悪いことだってわかってるのに、どうして物が言えないんですかね。不思議ですよね」と首をかしげる。

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持論になるが、私は一部の無低や貧困ビジネスも悪いが、もっと悪いのはそれらを見て見ぬふりする行政だと思っている。私自身はライターとして安易な公務員バッシングからは一貫して距離を置いてきた。公共性や継続性、中立性が求められる公務をこなす職員には一定の身分保障や賃金水準が必要だと思うからだ。しかし、搾取の実態を知りながら業者にも上部組織にも物申せないというなら、いったいなんのための身分保障なのか。

現在、ソウマさんは反貧困ネットワークのシェルターで暮らしながらアパートを探している。「暇な時間は苦手だから」とハローワークにも通っているが、職員からは「年齢のこともあるので仕事探しは厳しいかも」と言われているという。

ソウマさんは今回取材に応じた理由を「自分と同じような被害者を出したくないから」と説明する。

沈黙を続ける行政と、何の後ろ盾もないまま声を上げるソウマさん。いびつな対比に違和感しかない。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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