このときに入居させられたのが大規模な悪質無低だった。ワンフロアに2段ベッドがいくつも並び、個人のスペースはカーテンで仕切られたベッドの上だけ。朝晩2回の食事が提供される一方、ソウマさんにはケースワーカーから毎月9000円が手渡されるだけだった。
ソウマさんは「朝、ご飯をおかわりしたり、炊き出しに行ったりして夜まで空腹を我慢しました。当時は生活保護とはそういうものだと思っていました」と振り返る。
これでは自立どころか、就職活動もできない。ソウマさんは1カ月ほどでこの無低を逃げ出し、別の自治体であらためて生活保護を申請した。ところがまたしても入居先は無低。そこでは数カ月もするとスタッフとして働かされるようになった。
「調理から買い出し、電話対応、新しい入居者の送迎まで。毎日朝6時から夜8時、9時までと、結構長い時間働かされましたよ」
この間も生活保護の利用は継続。施設からは毎月3万円の“給料”が出たので、福祉事務所に収入申告を行い、手元には4万円ほどが残った。とはいえ、これでは時給100円にもならない。結局2年ほどで逃走した。「スタッフにさせられた人は、自分が知る限り全員逃げていました。巻き上げた莫大な保護費を暴力団に流しているという話も聞きました」と証言するソウマさん。2度と無低には入りたくないと思った。
一部の福祉事務所が住まいのない申請者に無低入居を強いるのは、賃貸物件の家賃水準や初期費用が高く、ほかに選択肢がないからだ。ただ生活保護は居宅保護(アパートでの保護)が原則であり、無低を強制する法的根拠はどこにもない。厚生労働省も「1人暮らしができる人は必ずしも無低入所を経る必要はない」との旨の通知を出している。
被害に遭うたびに、SOSを出してきたが…
新たな貧困ビジネスがはびこる背景には、福祉事務所によるこうした不適切な運用がある。実際、ソウマさんは貧困ビジネス業者にコンタクトする前に福祉事務所に連絡をしたが、「生活保護を申請するなら、無低に入ってもらいます」とあしらわれたという。ソウマさんは福祉事務所に出向かなかったのではなく、出向けなかったのだ。
一方でソウマさんは悪質な無低や業者の被害に遭うたびに、担当のケースワーカーらにSOSを出してきた。
無低で賃金未払いの長時間労働を強いられたときは、無低側に改善するよう伝えてほしいと頼んだが、「いつもお世話になっているので、うちからは言えない」と断られたという。住まいのない申請者をいつでも受け入れてくれる無低には意見などできないということらしかった。
また一般社団法人による貧困ビジネスに遭遇したときも、ソウマさんは「このままでは生活できない」と助けを求めたが、逆に「(一般社団法人について)ソウマさんのほうから東京都に苦情を入れてくれないか。うちからは上(東京都)に言えないけど、上から問い合わせがあれば、ちゃんと話すから」と頼まれたという。
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