障害者雇用「5人→10年で33人」奈良医大の大改革 民間企業の「法定雇用率」が来年から2.5%に

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障害のある人が働く場合、とかくその人ができないことを指摘して、それを改善させようとする、いわゆる「医学モデル」の考え方が出やすい(本連載第1回:なぜ「ふかふかの絨毯」は車いすだと困難なのか?参照)。

だが、看護部長は発想を転換してインクルージョンの考え方のもと、「彼らができないことを改善するのではなく、できることを探しましょう」と現場に指示を出した。それは、看護師が「その人らしく生きることを支援する」という教育を受けてきたからできた発想だ。

仕事は作業工程を細かく分割して、係員には1つひとつを詳しく説明していく。そのうえで「こうやって、隅々まで拭くのよ」と見本を見せながら指導する。新人研修よりはるかに時間はかかるという。

最初は戸惑いの声もあった

係員を配置した当初は、病院スタッフが彼らの特性をよくわからず、「ひとり言をつぶやきながら業務をする人とチームを組むこと」に戸惑いの声が上がったこともあった。さらに、忙しい病棟は岡山さんに「何度説明しても、係員に理解してもらえないのは、なぜですか」と詰問した。

岡山さんは病棟スタッフと係員の信頼関係を構築するため、「障害の特性から、いろいろなことをすぐ覚えられないところはありますが、ていねいに親切に指導していただいたら、いい結果を出します」と説明して回った。

係員の仕事ぶりのよさは、少しずつ病院内に広がった。看護副部長の平島規子さん(58歳)は「仕事を覚えるまでに時間はかかりますが、私たちが期待する以上に隅々まできれいに掃除してくれます」と太鼓判を押す。

平島さんは、係員との仕事では「人それぞれ、働くスピードが違うこと」を意識する。そして「相手を否定せず、できたことを承認する言葉がけ」を心掛けるという。通常の感覚で仕事のノルマを決めると、係員が達成できないとき、お互いにイライラしたり不安になったりするからだ。

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