外来化学療法室のいすは、がん患者が抗がん剤を点滴するときに使うため、清潔な状態を保つよう白いシーツが敷いてある。このシーツはベッド用のものを使うのだが、サイズが合わない。そこで適当な大きさに裁断して使っている。角谷さんはこの裁断作業を任された。
薬剤部から依頼された仕事では、薬の説明書約400枚を患者に手渡ししやすい大きさに折る。角谷さんはコツコツと仕事をすることが得意だ。
このほか、人事課から依頼される出退勤や年次休暇のデータ入力、文書作成などを担当する日もある。どんな仕事でも、初めて作業するときは必ず依頼者と一緒に作業をし、でき上がりの見本を見せてもらう。障害の特性上、抽象的な表現の指示はイメージしにくいからだ。
仕事が順調に進んでいるときでも、急ぐことなく自分のペースで作業するよう心がけている。職場で悩みや困ったことが起きたときは、1人で抱え込まず上司に相談する。
このように気を付けていることには理由がある。精神疾患がある場合、服薬によって生活が安定し、医師から就職可能と判断されても、身体的心理的なストレスやプレッシャーによって、体調に波が出やすいからだ。体調を崩すと、自宅から外に出られなくなる。
大学のときに統合失調症を発症
角谷さんは大学時代に統合失調症を発症した。
生活する気力が湧かず、塞ぎこんで登校できず、苦しい日々が続いた。しかし、治療を続けるうちに体調が安定するようになった。その後は 障害者就業生活支援センターから紹介を受けて、同院へ入職した。
仕事中、障害のある職員(以下、係員)は揃いのポロシャツを着ているが、このポロシャツを見た患者から、励ましの声をかけられるそうだ。
角谷さんはこう話す。「患者さんから『ありがとうございます』と言われると、私も『よかった』『次も頑張ろう』とやる気が出ます」
両親も、毎朝通勤する姿を見てうれしそうだという。「病気になり悩みましたが、働くことで頑張れるようになった。親孝行できているかなと思います。働くことが生きがいになっています」と角谷さんは笑顔で答える。
奈良県立医科大学が障害者雇用に力を入れるようになったのは、2014年から。前年、同大学の障害者雇用率は1.28%で、法定雇用率に達していなかった。
関連施設の中で病院は業務量がかなり多い。そこで、大学が障害のある人を雇用して、系列施設の病院で働いてもらうことにした。彼らの採用に当たったのは、系列の保育園で園長をしていた岡山弘美さん(61歳)だ。
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