前例なし「M-1グランプリ」誕生の知られざる舞台裏 ミスター吉本「漫才を盛り上げてほしいんや」
なにしろ、テレビ・ラジオ部や劇場制作、営業促進など部署ごとに分かれている組織を横断し、漫才に関してはすべて自身の漫才プロジェクトが主導してやるということなのだ。少なくともやりがいはありそうである。
ところが……。
「他に誰がいるんですか」
「お前ひとりや」
木村常務は当然だという顔で言った。
ひとり! ひとりでプロジェクトと言えるのか? 部下のいないリーダーか。
「誰か部下はいないのですか」
「部下? 部下なんかいるか?」
木村常務は不思議なことを言うやつだという顔でぼくを見た。いるに決まってるでしょう。
「ひとりでできることは限られてます。ふたりになれば、できることは2倍以上になるはずです。誰でもいいので、新入社員でもいいので誰かつけてください」
ぼくは必死で訴えた。
「そんなもんいるかなあ。まあ、考えとくわ」
常務は、話は終わりだという感じで打ち切った。
おそらく考えてくれないだろうなあと思いながら部屋を出た。(11〜12ページより)
「お前ひとりや」
木村常務は当然だという顔で言った。
ひとり! ひとりでプロジェクトと言えるのか? 部下のいないリーダーか。
「誰か部下はいないのですか」
「部下? 部下なんかいるか?」
木村常務は不思議なことを言うやつだという顔でぼくを見た。いるに決まってるでしょう。
「ひとりでできることは限られてます。ふたりになれば、できることは2倍以上になるはずです。誰でもいいので、新入社員でもいいので誰かつけてください」
ぼくは必死で訴えた。
「そんなもんいるかなあ。まあ、考えとくわ」
常務は、話は終わりだという感じで打ち切った。
おそらく考えてくれないだろうなあと思いながら部屋を出た。(11〜12ページより)
かくして著者の奮闘がスタートする。たしかに、映画の出だしのような突拍子のなさである。しかも、漫才ブームはとうに過ぎ去っていたのだ。
真剣な目をしていた
会社は右肩上がりの成長を続けていたが、こと漫才に関しては低迷していた。ここ数年は漫才師の中から新しいスターが出てきていなかった。相変わらずベテラン漫才師たちががんばっていて、寄席の最後の3組(シバリ・モタレ・トリ)の出番は若い者に渡さなかった。逆に言えば、ベテランを脅かすような新しい戦力が出ていないということだ。(18ページより)
漫才師たちも、漫才番組に出るよりバラエティー番組のレギュラーになることを強く望んでいた。漫才は漫才ブームとともに終わった古いものだという思いが、漫才師はもとより世間にまで広く浸透していたということだ。
だが、それは真実であると同時に、間違いでもあった。漫才を肯定的な目で見てくれる人は、決して少なくなかったのである。そのいい例が、漫才プロジェクトを始動させた過程で再会した島田紳助さんだった。著者はかつて、彼のチーフマネジャーをしていたうちのひとりだったそうだ。
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