小野寺五典氏「日本攻撃の可能性は否定できない」 台湾有事で日本に問われる2つの危機対応能力

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
出口の見えない戦争は今も続いている(写真: Andrea Nicolini/getty)
2022年2月のロシアのウクライナ侵攻開始から1年8カ月が過ぎた。戦争は今も出口が見えず、「泥沼化」が続く。23年9月13日、北朝鮮の金正恩総書記がロシア極東部の宇宙基地でロシアのウラジーミル・プーチン大統領と首脳会談を行い、軍事協力に乗り出すことで合意した。一方、ロシアと並ぶもう一つの核保有大国の中国では、22年10月に3期目続投を決め、「1強」体制を固めた中国共産党の習近平総書記が、持論の「台湾統一の完全な実現」を叫び、以後も武力行使による統一も否定しない方針を唱え続けている。
東アジアでロシア、北朝鮮、中国の権威主義の核保有国に取り囲まれる日本の安全保障環境は近年、歴史上、最も険しい状況という分析が有力だ。中でも「眼前の危機」といわれ始めたのが、中国による台湾への武力侵攻を想定する「台湾有事」の懸念である。
このたび、『安全保障の戦後政治史』を刊行したノンフィクション作家の塩田潮氏が、前回に続き、自民党屈指の安全保障の専門家として知られる小野寺五典氏(元防衛相・自民党安全保障調査会長)にインタビューを行い、国民の関心が高まっている「台湾有事の懸念と日本の今後」について、核心部分を尋ねた。(インタビューは2023年10月4日に行いました)

中国による台湾工作のシナリオ

塩田:今年6月のインタビューで「2014年にロシアが初めてウクライナを侵略したときから、戦争の仕方が変わった」と発言されました。戦争の仕方が変わったことによって、中国は台湾統一を目指す際、従来型の制海権・制空権の確保だけでなく、サイバー攻撃などさまざまな仕掛けを講じるのでは、と思いますが、どんなシナリオが考えられますか。

安全保障の戦後政治史: 防衛政策決定の内幕
『安全保障の戦後政治史: 防衛政策決定の内幕』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

小野寺:サイバー攻撃はすでに行われています。台湾に行って、私たちが情報を集めるとき、中国からどのようなサイバー攻撃がされているか、綿密に聞いています。次に日本に攻撃するときは、当然、サイバーで同じようにしてくる。それは警戒すべきです。

中国の対台湾工作のシナリオで、間違いなくすぐ起きるのは、台湾に対する海底ケーブルの遮断、切断でしょう。情報通信網、各国のサイバー空間は現在、基本的にそれぞれの国が海底ケーブルでつながっています。これがすべて遮断されれば、情報通信網は機能しなくなる。台湾も同じくそれを警戒していると思います。

とはいえ、対策は難しいですね。当然、海中・水中の警戒監視が重要です。ただ、中国本土に向いたものは、中国も自分で切断できます。そこを回避した形にする。日本や、ほかの島、陸地を通じたところにケーブル網を多数引き、強化・強靱化していく手があります。ほかには、ケーブルを使わず、衛星を使う形での通信網とか、いろいろな抗たん性を台湾も用意しているのではないかと思います。

塩田:台湾有事が懸念されている現在、実際に台湾の人たちの中国本土に対する感情に変化が生じているのでしょうか。

小野寺:2つあると思います。1つは中国に対する経済的、文化的な思い、もう1つはそれ以上に強い警戒心ですね。

次ページ南シナ海や尖閣への進出にも警戒
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事