小野寺五典氏「日本攻撃の可能性は否定できない」 台湾有事で日本に問われる2つの危機対応能力

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塩田:反対に、日本政府がアメリカとの事前協議で「認めない」と決定すれば、日米安保条約に基づく同盟関係が崩壊の危機に直面します。極めて厳しい選択となりますね。

小野寺:これはもう政治判断だと思います。「判断は瞬時に」と言われます。日本が攻撃を受けた場合の判断は瞬時ですが、日本が攻撃を受けていないという前提で、在日米軍基地の使用について問われた場合は、政府内での一定の議論は、当然、あるかと思います。

現実には、紛争が起きたら大変なことになるので、起こさないための抑止力が大事です。それも政治的な裏づけ、つまり防衛力や同盟の力がなければ、単なる外交の話し合いになってしまいます。それは話をしているだけで、外交で何か1つの方向に導くことはできない。やっぱり力がなければ、外交といっても、単なる言葉の話になってしまう。

尖閣占領は中国にとって最悪手となる

塩田:もう1つ、拙著『安全保障の戦後政治史』でも「第10章 尖閣問題での日中衝突」で触れましたが、台湾有事との関連で、沖縄県の尖閣諸島をめぐる日中関係も見すごすことができません。尖閣は日本が実効支配していますが、帰属に関して、中国にも台湾にも一部に異議を唱える声があります。台湾の一部と中国が尖閣領有を主張し、「台湾統一」の一環として武力行使によって尖閣奪取を仕掛けてきたら、日本はどう対応しますか。

小野寺:私の理解では、尖閣に関しては日本の領土だと明確に日本は主張しています。日米安保条約では、日本の施政下にあるところはアメリカは守ることになっていて、日本の施政下にある尖閣は、アメリカは守るということで、この一線はずっと変わっていません。私どもは、「領土」という言葉を使っていないことが不満ではありますが、少なくとも安保条約第5条適用を変えていないのは間違いないと思います。

この点について、中国の主張を聞く必要はないので、国際的に尖閣は日本の領土であり、日本はその線で切っていけばいいと思います。安全保障上は、もし中国がわざわざ尖閣を占領したうえで台湾を攻撃することになれば、尖閣を占領された時点で、日本は日本の領土を取られたわけですから、日本がすでに中国との武力衝突の当事者になります。こうなれば、安保条約第5条の適用で、米側にしっかり一緒に動いてくれということになる。

中国がもし本当に台湾統一をやろうとするなら、尖閣の占領は日本とアメリカを明確な敵にしてしまいます。おそらく中国はそんな戦略は取らないと思いますけどね。

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