小野寺五典氏「日本攻撃の可能性は否定できない」 台湾有事で日本に問われる2つの危機対応能力

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塩田:ここ数年、国際情勢と安全保障環境が大きく変動していると思いますが、向こう6~7年、2020年代を通して、日本を取り巻く安全保障の状況はどう変化すると見ていますか。その中で、日本はどういう取り組みを行うべきだと思いますか。

小野寺:残念ながら、日本にとって悪い方向に行っていると思います。今回のロシアのウクライナ侵略をめぐって、ロシアは孤立をすると同時に、急速に中国と北朝鮮に接近を始めました。

ロシア、中国、北朝鮮は、日本から見れば、日本を取り囲む核保有国の集まりです。ロシアが孤立し、助けを求める形で中国、北朝鮮に接近することは、日本の安全保障の環境がますます厳しくなったと判断すべきです。ウクライナでの紛争によって緊張が高まったのは、むしろ東アジアと日本の周辺と考えるべきではないかと思います。

日本にとって恐怖のシナリオ

もう1つ、とても怖いシナリオは、もし北朝鮮がロシアの防衛装備の工場となり、武器弾薬の提供を始めたとき、アメリカは今までと違った目で北朝鮮を見て、北朝鮮に一定の武力的な制裁を講じる可能性がある。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相など、枢要な人物が北朝鮮に出向き、今後、もしプーチン大統領まで訪問することになると、北朝鮮のロシア支援で、今度は北朝鮮と韓国、日本の緊張がさらに高まります。

塩田:こういう安全保障環境の激変という状況の下で、日本の政治と日本国民はどういう点に強い関心を持つべきだと考えますか。

小野寺:やはり安全保障に関して国民全体で強い関心を持つべきだと思います。台湾有事が起きる可能性について、国民が関心を持たなくなったら、逆に有事が起きる。ここは危ない、こういう行動を取っている、じっと見ているぞ、万が一のときはしっかり対応するぞ、という意識を持ち続ければ、最悪の方向に行かないと思うんです。

実は安全保障の問題は、自然災害と違って、努力で防げるんですよ。1つはきちっとした抑止力、もう1つは外交での対話のチャネルの確保です。これで防げる。日本政府としてそれをしっかりやる。これを国民に約束することが政治の仕事だと私は思います。

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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