分断が進む職員室に対話を生み出す「魔法の質問」 「なぜ先生になったの?」から始まる対話文化

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住田昌治(以下、住田):それはいいですね。私も膝の上に円形のホワイトボードを乗せて教職員同士が対話する「円たくん」を作りました。私はたき火ではなく、こたつを囲むような温かい雰囲気で本音を語れる場を作りたいという思いがありました。

住田昌治(すみた・まさはる)/ 湘南学園学園長。1958年生まれ。横浜市立永田台小学校校長、横浜市立日枝小学校校長を経て、現在学校法人湘南学園学園長。教職員や児童生徒が自律自走するための学校組織マネジメント・リーダーシップ、働き方等について執筆や全国各地で講演を行っている。著書に『カラフルな学校づくり』(学文社)、『管理しない校長が、すごい学校組織をつくる!「任せるマネジメント」』(学陽書房)、『校長先生、幸せですか?』(教育開発研究所)などがある(撮影:今井康一)

昨今取り上げられる学校現場の問題は、教員の多忙さと共に、人間関係の問題も大きいと考えています。だから雑談から会話に、会話から対話にときちんとコミュニケーションがとれる場を作っていく必要があります。そうでない限り、いい教育活動はできません。

かつては職員室文化というものがありました。職員室はいつも誰かがワイワイ話していて、自分の学年以外の話題も耳に入ってきます。そこで自然と相談に乗ったり乗ってもらったりといったことができていました。

それが各学年などで分かれたり、個別に仕事をするようになったりして分断が進み、さらにその中でグループができて、結果、風通しが悪くなってしまっています。風通しのよい組織は、コミュニケーションのよい組織ですからね。そもそも先生たちは同じ職場で一緒に働いていても、知らないことがたくさんありますよね。

「どうして先生になったのか」という問いの意味

赤司:私が「中つ火」を始めようと考えた理由の1つは、まさにそれです。たとえば企業なら、「同僚の入社の動機を知っていますか」という問いは、互いを知っているかどうかのバロメーターになります。学校なら「なぜ先生になったの?」ということです。

住田: その人の教育観の根幹を成す部分ですね。今、私は校長研修をすることが多いのですが、「どうして教員になったのですか?」と聞くと、皆さん自分の人生を振り返りながら熱く語り合ってくれます。これを校長が自分の学校でもやってくれたら、もっと対話が生まれてくるかもしれません。

赤司展子(あかし・のぶこ)/ 札幌新陽高校校長。札幌新陽高校の「複業する校長」。早稲田大学商学部卒業後、三井物産、アルフレックスジャパン、UBS証券を経て2007年PwC Japan入社。被災地支援の一環で福島県双葉郡の教育復興プロジェクトを推進。2018年「学びの多様化」に取り組むため独立しウィーシュタインズを設立。2021年4月より札幌新陽高校の校長を務める。ウィーシュタインズ株式会社代表取締役、NPO法人インビジブル理事、社会彫刻家(撮影:今井康一)

赤司:新学期である4月の「中つ火」は、いつも「自分らしさ、新陽高校らしさって何だろう」というテーマで会話を始めています。それぞれの考えを知るいい機会です。同時に、「違いを見える化」することも目的の1つです。

先ほど住田先生がおっしゃったように、自分がそうだから他人もそうだという思い込みや、「教員だからこう考えるでしょ?」というセオリーなどはありません。同じ意見であっても、そこにたどりつくまでの経験や思考、価値観は実はまるで違うことがあります。一方で、意見は対立していても、思いや願いは同じということもあります。

いずれにせよ、そうしたメンタルモデルをあえて言語化し共有していると、対話の文化ができやすく、先ほどの授業の進め方や、あるいは生徒の問題に対しても話し合いがスムーズにできるようになると感じています。

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