規格外の男が、「心臓外科」に革命をもたらす 工学により、医学はもっと進化する

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心臓血管の縫合技術をトレーニングするための革新的なマシンを作り出した(撮影:今 祥雄)
外科手術の中でも難易度の高い心臓血管の縫合。その技術をトレーニングするための革新的なマシンを、1人の若者が生み出した。彼はさらに、マシンを使ったこれまでにないトレーニングシステムを考案。いま、世界の心臓外科医を巻き込んでデファクトスタンダードを構築しようとしている。

木綿豆腐やナプキンでトレーニングする若手外科医

それは、朴栄光(パク・ヨンガン)にとって、衝撃的な事実だった。

心臓外科医の若手は日々、どのようなトレーニングで自分の腕を磨いているのか。かつてはいったん人工心肺に切り替えてから手術が行われていた心臓外科手術だが、最近では患者の体の負担を考慮して、心臓を動かしたまま行うのが主流になっている。拍動している心臓にメスを入れるということは、それだけ難易度が高まったということだ。

特に難しいのが、冠動脈バイパス手術などで実施される直径2ミリほどの心臓血管の縫合。心臓血管は心臓壁と一体化しており、心臓とともに拍動する。もし縫合に不具合があれば、血液が漏れ出したり、血流が滞って命の危険につながるので、ミリ単位のズレも許されない。繊細な技術とタフな神経が求められるため、特に若手の医師はトレーニングが不可欠だ。しかし、難易度の高い手技だからこそ、現場ではなかなか実技を学ぶことができないというジレンマがあった。

比較的、人間の心臓と形が似ている豚の心臓や、模擬心臓が埋め込まれたマネキンなどを使ってトレーニングをすることはできる。しかし、それなりのお金がかかるので、必然的に若手のトレーニング回数は限定される。

十分にトレーニングを積めていないことを自覚している若手は不安に駆られて個々で心臓血管の縫合練習をするのだが、その方法を知って朴は言葉を失った。

彼らは日々、木綿豆腐や食堂に置いてあるナプキンを縫っていたのである。形は心臓とは似ても似つかないし、拍動もしない。素人から見ても効果的な練習とは思えないが、いずれくる本番のために手技を高めなくては、という若手医師の必死さの表れだった。

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