猿田彦珈琲、「究極の一杯」は世界を目指す 元俳優が挑む「日本発の世界ブランド」

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猿田彦珈琲の店主、大塚朝之さん(撮影:今井康一)

猿田彦珈琲は恵比寿にある、わずか8.7坪のスペシャルティコーヒー専門店だ。「たった一杯で幸せになるコーヒー屋」をコンセプトに掲げて2011年6月にオープンしてから3年半、いつもたくさんの客でにぎわい、時には行列もできる人気店である。とはいえ、手作り感溢れるアットホームな雰囲気のお店で、決して全国的な有名店ではなかった。

だから今年、2014年の春、この店の常連客はテレビを見て「あっ!」と驚きの声をあげた。猿田彦珈琲の店主・大塚朝之が、4月にリニューアルされた大手飲料メーカーの缶コーヒーの監修を行い、さらにはバリスタとしてテレビCMにも登場したからである。大塚は近年流行のサードウェーブコーヒーの先駆者として業界でも一目置かれる存在になっており、それが抜擢の理由だった。

しかし、一躍、全国的に名が知れ渡った大塚も、8年前まではコーヒーにこだわりのない普通の若者だったという。客として大手コーヒーチェーンに通っていた男がスペシャルティコーヒーの専門店を開き、CM出演にまで至るにはどんな道のりを歩んできたのだろうか。

俳優からコーヒー豆屋へ転身

大塚は15歳から芸能事務所に所属し、俳優として活動していた。映画『突入せよ!「あさま山荘」事件』に犯人役として出演したり、某有名スナック菓子メーカーのCMに起用されたこともある。

ところが25歳のある日、芸能界を離れることを決意した。無数のオーディションを受け、結果に一喜一憂している日々の中で疲弊してしまったのだ。10年間打ち込んだ俳優の道を諦めた大塚はしかし、解放感に浸るというより宙ぶらりんの状態になってしまった。

この時、コーヒーに出会った。炭火焙煎も手がけるコーヒー豆店、南蛮屋の下高井戸店で働く幼馴染が、目標を失って途方に暮れていた大塚に「うちで働かない?」と声をかけたのだ。

この友人の誘いが、転機となった。 明確な答えなど存在せず、仕事の評価も何かと曖昧な芸能界に身を置いていた大塚の目には、美味しいコーヒーを作り、それを売るという南蛮屋での仕事は非常にシンプルに映った。そのシンプルさが、新鮮だった。

コーヒー豆を挽くことにも、お客さんとのやり取りにも、俳優時代とは違う小さくとも確かな充実感があった。さらに丁寧に作られたコーヒーの美味しさを知ったことも重なり、あっという間にコーヒーの虜になった。凝り性の大塚は猛勉強をして、働き始めて半年後にはコーヒーマイスターの資格も取得した。

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