猿田彦珈琲、「究極の一杯」は世界を目指す 元俳優が挑む「日本発の世界ブランド」

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日本ではサードウェーブコーヒーという言葉がブームになり、さまざまなコンセプトのコーヒー店が続々とオープンしているが、世界最高のホスピタリティを目指す猿田彦珈琲にとって、世の中の流行り廃りはあまり関係がない。大塚は、日本のサードウェーブの認識に違和感を持っていると語る。

サードウェーブといえば洒落たカフェと小粋なバリスタ、滋味豊かなコーヒーの味をイメージする。だが大塚によると、サードウェーブの根底にあるのは優良な生産者を守りながら美味しいコーヒー豆を仕入れるために、世界中のコーヒー豆を安く買い占める大手コーヒーチェーンに果敢に戦いを挑んだアメリカの独立系ロースターの熱い想いがある。

彼らは身を削ってコーヒーチェーンより高い金額で豆を買い、ダイレクトトレードを始めた。そうして大量に仕入れた高品質の豆をどう売るかを模索した時に、客のニーズに合わせて焙煎し抽出するという今の形にたどり着いた。そこにライフスタイルや価値観の変化が重なってサードウェーブという文化になっていったのだが、日本では、少しスタイル先行になっているように見えるというのが、大塚の違和感の理由だ。これは恐らく、味や見た目を超えて「未来を切り開く活力を与えるためにコーヒー」を出そうと日々試行錯誤している大塚だからこその視点だろう。

それにしても、ブームになる前にスペシャルティコーヒーの店を始めたことで、本人が望まざるとも、「サードウェーブコーヒーの旗手」と評された大塚が、大企業とタッグを組んで缶コーヒーの開発に携わるというのだから人生は何があるかわからない。

大塚にとって大きな挑戦だったが、このコラボレーションによって新たな道が拓けた。猿田彦珈琲は行列ができる人気店ではありながら、これまで恵比寿の一店舗のみで通してきたが、その理由は「お金がなかったから(笑)」。しかし、CMに出たことで知名度が高まり、銀行の融資も受けやすくなって、やりたかったことを実行に移す機会を得たのだ。 

来年1月に60坪の店をオープン

この追い風に乗って、大塚は勝負をかけた。まず今月、恵比寿店の近くに小さなコーヒー豆の販売所を開く。さらには来年1月に故郷の仙川に焙煎所を兼ねた60坪の二号店をオープンさせる。しかも、かつてよく足を運んだスターバックス仙川店の隣に、である。

「今年は飛躍的な1年を過ごすことができたので、いよいよ次の展開をする時期がきたと思っています。生まれ育った仙川で店を開くのは光栄なこと。原点回帰ですね」

来年といえば、「コーヒー業界のアップル」とも称されるアメリカのブルーボトルコーヒーのオープンも控えているが大塚は「スペシャルティコーヒーのすそ野を広げるためにも成功して欲しい」と歓迎する。それは、サードウェーブコーヒーの流行とは一線を画す猿田彦珈琲の武器「最高のホスピタリティ」に自信を持っているからだろう。

「今、うちには24人のスタッフがいますが、彼らには『たった一杯で幸せになるコーヒー屋』という僕らの文化が浸透していて、それがほかの店との差別化につながっていると思います。恵比寿にもいろんなコーヒー店があって皆さん頑張っているので、良い意味でそれぞれ独立した存在でやっていけたらいいなと思いますね」。

店が小さい恵比寿では、コーヒーの味に徹底的にこだわりつつ、タブーを設けずに客が喜ぶことをするというスタイルを徹底できた。店の規模が約7倍になる仙川でもそれを貫けるかが、今後の成功の鍵を握るだろう。

恵比寿店は喫茶店の居抜き物件を改装したものだが、喫茶店になる前はガレージだったそうだ。「海外に負けない日本発のコーヒーブランドを作りたい」と語る大塚は、ガレージ発で世界的企業に成り上がったアメリカのベンチャーにも負けない大きな夢を抱いている。

 

当連載では、「世界レベルの仕事を、軽やかにやってのける若きプロフェッショナル」のサクセスストーリーを紹介していきます。次回以降もお楽しみに!(編集部)
川内 イオ フリーライター

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かわうち いお / Io Kawauchi

1979年生まれ、千葉県出身。広告代理店勤務を経て2003年よりフリーライターとして活動開始。2006年夏、バルセロナに移住し、スペインサッカーを中心に各種媒体に寄稿。2010年夏に帰国後は、編集者としてデジタルサッカー誌編集部、ビジネス誌編集部で勤務。2013年6月より、フリーランスのエディター&ライター&イベントコーディネーターとして活動中。スポーツ、旅、ビジネスの分野で輝く才能やアイデアを追って各地を巡る。

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