前編はこちら! 南極が鍛えた「日本でいちばん火星に近い男」
南極での日々は、村上を変えた。濃密すぎる経験によって精神的にタフになったというだけではない。具体的に体が変化したのだ。村上は「南極から戻ってから、冬でも暖房をつけなくなったんです」、と笑う。
そしてもうひとつ、大きく変わったのは宇宙への思いだった。
「南極の先に宇宙というまっすぐな道を描いていたんだけど、南極と宇宙の違いがさっぱりわからなくなったんです。もちろん、無重力とかそういうことが違うのはわかるけど、僕が知りたかった極地で自分の能力がどうなるのか、人々の生活がどう変わるのか、ということに関して言えば、宇宙より南極の方がむしろ厳しい環境にあるとも思うんです。そう考えると、まっすぐだった道がぐにゃぐにゃになりました」
南極は宇宙より厳しい環境
宇宙より南極のほうが厳しい――。この言葉を聞いて疑問に思う人がいるかもしれないが、かつて村上が宇宙飛行士の向井千秋さんから言われたという「宇宙より南極のほうが遠いからね」という言葉が、村上の思いを象徴している。現在、宇宙で人間が唯一滞在できる国際宇宙ステーションは隔絶された環境だが、極夜もブリザードもないし、最短40分で地球に戻ることができる。
一方、南極は一度行ってしまうと何が起きても翌年に次の船がくるまで帰ることができないし、過酷な自然が常に人間を試してくる。なにより、国際宇宙ステーションでの最長滞在記録は215日で、村上がライフワークとしている「極地で暮らす人間の生活の研究」において、7カ月は「短期滞在」であり、「生活」ではないという考えも生まれた。
こうして宇宙から気持ちが離れかけたまま、村上はエベレストのベースキャンプや富士山測候所に長期滞在し、地球上の極地における人間の生活を研究し続けていた。その村上がなぜ、「MA365」の最終選考に挑むことになったのだろうか?
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