「日本で一番火星に近い男」、宇宙への道程 NASA基準をクリアする日本人(下)

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第50次南極観測隊のメンバーとして南極に15カ月滞在したほか、エベレストのベースキャンプや富士山測候所での長期滞在経験も持つ極地の専門家。現在は極地建築家・探検家として活動する。(撮影:今井康一)
片道切符の火星移住計画「マーズワン」が発表されたのは2012年。昨年には、NASAが「2030年代に有人火星探査を実施する」と発表した。
世界は今、火星に人類を送り込むために動き始めており、NASAや民間資本の主導で各分野のプロを対象にした本格的な火星基地居住実験の被験者の選考が進んでいる。あらゆる才能が集うその選考で、ファイナリストに残っている極地の専門家が日本にいる。元南極観測隊員、村上祐資だ。

前編はこちら!南極が鍛えた「日本でいちばん火星に近い男」

南極での日々は、村上を変えた。濃密すぎる経験によって精神的にタフになったというだけではない。具体的に体が変化したのだ。村上は「南極から戻ってから、冬でも暖房をつけなくなったんです」、と笑う。

そしてもうひとつ、大きく変わったのは宇宙への思いだった。

「南極の先に宇宙というまっすぐな道を描いていたんだけど、南極と宇宙の違いがさっぱりわからなくなったんです。もちろん、無重力とかそういうことが違うのはわかるけど、僕が知りたかった極地で自分の能力がどうなるのか、人々の生活がどう変わるのか、ということに関して言えば、宇宙より南極の方がむしろ厳しい環境にあるとも思うんです。そう考えると、まっすぐだった道がぐにゃぐにゃになりました」

南極は宇宙より厳しい環境

南極の青空の下でくつろぐ村上。南極から日本に戻った時、日本の冬が暑く感じたという。(提供:村上祐資)

宇宙より南極のほうが厳しい――。この言葉を聞いて疑問に思う人がいるかもしれないが、かつて村上が宇宙飛行士の向井千秋さんから言われたという「宇宙より南極のほうが遠いからね」という言葉が、村上の思いを象徴している。現在、宇宙で人間が唯一滞在できる国際宇宙ステーションは隔絶された環境だが、極夜もブリザードもないし、最短40分で地球に戻ることができる。

一方、南極は一度行ってしまうと何が起きても翌年に次の船がくるまで帰ることができないし、過酷な自然が常に人間を試してくる。なにより、国際宇宙ステーションでの最長滞在記録は215日で、村上がライフワークとしている「極地で暮らす人間の生活の研究」において、7カ月は「短期滞在」であり、「生活」ではないという考えも生まれた。

こうして宇宙から気持ちが離れかけたまま、村上はエベレストのベースキャンプや富士山測候所に長期滞在し、地球上の極地における人間の生活を研究し続けていた。その村上がなぜ、「MA365」の最終選考に挑むことになったのだろうか?

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