キャプコムの時間が、ポイントだった。いかにその日、自分が評価に値する活動をしたのかという自己PRをしたいがために、日中の行動が独善的になっていったのである。
「チーム内で地味な日常の役割を頑張った内容というのはあまり報告するようなことじゃないので、アピールになることを頑張ろうという人、自分のポイントのためにメンバーを利用する人が出てきました。例えば、屋根裏に部屋を作るというのが僕らのミッションのひとつだったんだけど、設計をどうするか話し合う時も、あれもやりたいこれもやりたいということになって、僕は『そんなにうまくいかないよ』と思っていたけど、みんなとにかく評価につなげることに一生懸命になってしまう。これはコンペティションなんだぞという意識は強く感じましたね」
キャプコムの時間も、誰かひとりがアピールを始めると、ほかのメンバーも負けじと追随し始めた。必然的にギスギスした雰囲気になっていくなかで、「8割の力」で自分をコントロールし、チームの状況が悪化するのを冷静に観察していた村上は、一計を案じた。
この最終選考で、村上の役割は生物学者とフォトグラファーだった。フォトグラファーは1日の活動を撮影し、中から8枚だけ写真を選んでキャプコムの時間にその日の活動を紹介するのが仕事だ。村上は、その8枚にメッセージを込めた。
笑いを取るような発表をした
「キャプコムの時間にみんなを少しでも和ませられればいいなと思って、今日こんな楽しいことがあったよねと思い出させるような写真とかメンバーのおちゃめなシーンの写真を入れるようにしました。写真のタイトルにも、メンバーにしかわからないメッセージを込めました。例えば、『今日のEVAの○○の出来事』みたいなまじめなタイトルなんだけど、誰かがふざけている写真を入れたり、クスッと笑えるようなくだらない仕掛けです」
いつでも「面白いことをして仲間を楽しませたい」という気持ちがあり、南極時代もいたずらをして笑いを取っていた村上は、模擬火星基地でもそのサービス精神を発揮したのだ。
その気持ちは通じた。初めのうちは村上に対して「自分の写真を入れてほしい」とオーダーする人までいたが、次第にメンバー全員、村上がセレクトした写真を楽しみにするようになった。効果はそれだけではなかった。
「僕自身もセレクションを気にしてないわけじゃなくて、もうちょっと自分を出したほうがいいかもしれないという葛藤がありました。でも途中から、周りのメンバーが僕の写真を撮ってくれて、これを使ったほうがいいよって言ってくれるようになったんです。みんなのレポートの内容も変わってきて、その時に、少しは役に立ったかなと実感できました」
他人を楽しませると同時に自分も楽しむことに貪欲な村上は、「意外にやることがあって朝から晩まで忙しい」という日常も盛り上げた。“火星基地”のキッチンに生ものはなく、基本的にアメリカでよく売られている「茹でたらできあがり」のような乾燥食材と、味に変化をつけるための大量のスパイスしかない。これではいかにも味気ない食事になりそうだが、村上は基地にある材料を駆使してうどんを打ったり、オーブンで「ラザニアチックなもの」を作ってメンバーを喜ばせた。1日だけあった完全オフの日には、メンバーを巻き込んでコメディ映画を撮影した。
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