中小企業と外部の後継者をマッチングする新潮流 経営希望者が出資を得て経営したい会社を買収

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周囲には、起業という形で経営者の道を目指す仲間も多かった。ただ、それではこれまで培った魅力ある事業の改善策を考えるノウハウがうまく生きない。そんな思いがサーチファンドという手段を選んだ理由だという。

市場自体には伸びしろのある訪問介護業界だが、小規模な事業者が乱立する状態には課題も感じるという。松本氏は「事業所ごとの横のつながりが薄く、暗黙知が暗黙知のままになっている。そうした社会課題を解決していきたい」と意気込む。

サーチファンド
メディプラスの松本竜馬社長(右)は事業承継の申し出にあたり、アポなしで当時の社長に直談判した(記者撮影)

アメリカで立ち上がった仕組み

経営者となる候補者を先に探して、事業承継させるサーチファンドという仕組みは2000年代にアメリカで立ち上がり、2010年代後半から南米やヨーロッパで広がったとされる。ただ、日本では2020年代になってようやく始まった。前出のJaSFAなどの会社が金融機関と組み、サーチャーの登録や買収のためのSPC設立などを手がけている。

独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)によると、M&Aによる事業承継は2022年度に1681件に達した。一方、サーチファンドの仕組みによる事業承継は年間数件が限度なのが現状だ。サーチャーとなる人材には高いスキルが求められるほか、個々の事情に即した対応が必要で件数を増やすことが難しいからだ。

それでも、JaSFAの嶋津紀子社長は「今はまだ黎明期、成功例を増やしてよい循環を作りたい」と、事業承継の主流にはならなくてもユニークな仕組みとしての普及を目指すという。

JaSFAと組んで事業承継用のファンドに出資する野村リサーチ・アンド・アドバイザリーの茂木豊社長は「日本の社会課題にユニークに刺さるやり方。投資事業に関わる企業としていいビジネスに育ってほしい」と語る。

競争力のある中小企業を次代に残すためにも、多様な手段を広めることは今後必要になってくるだろう。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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