一方、武器提供や訓練支援は、一朝一夕で終わるものではなく、武器の維持整備や要員養成の必要性から、継続が不可欠となる。
その継続的実施は、軍事当局間の信頼関係を醸成するとともに、装備の標準化や維持整備を通じ、さらなる協力につながる経路依存性を内包している。その長期的な援助関係が、軍事部門改革の浸透につながり、軍事的効果の向上をもたらす場合もある。
ウクライナでは、NATOの長年の要求を踏まえ、文民統制等について規定した2018年の「国家安全保障法」制定以降、軍事部門改革が進んだと指摘されており、これにより軍隊の能力が高まっていった可能性がある。
アメリカが長らく援助を続けてきたイラクでも、2016年のイスラム国からのモスル奪還で大きな戦果を挙げたのは、アメリカの訓練によりプロフェッショナルな規律を獲得した対テロ部隊「黄金師団」であった。
OSAの実施に対する示唆
これらの議論は、日本のOSA実施にどのような示唆を与えるだろうか。もちろん、アメリカの援助は規模が大きく、殺傷性のある大型兵器も含まれるため、国際紛争と直接関連させず、インフラ整備など後方分野も含まれる日本のOSAに直接当てはめて検討できるものではない。
他方で、相手国軍隊の能力向上手段である点では目的を同じくするし、現在の出発点から「大きく育てた」場合の一つの形態として、念頭に置く必要がある。経験の不足と援助規模の少なさ(今年度予算は20億円)といった制約がある中でも、インド太平洋地域において日本の味方を増やし、警戒監視能力等の向上支援を通じ、中国の軍事活動に対する抑止力を強化するためには、物理的な援助手段は有用性がある。
そのうえで、第1に、OSAの実施に当たり、相手国の取り込みと抑止力向上という2つの戦略的意義の均衡点を見極める必要がある。特に、米中の戦略的競争関係の狭間で、OSA候補の東南アジア諸国等は、中国との距離を慎重に測っている。
その中で、援助に対中抑止の側面が前に出すぎれば、もう1つの意義である被援助国取り込みの側面を棄損する可能性もある。継続の重要性を踏まえれば、政府が特定する非伝統的安全保障分野における協力は、出発点として正しい。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら