当初は、旧ソ連に対抗するため、西側諸国が共産化するのを防ぎつつ、その軍事力を増強するために用いられた。そこでは、自由主義か権威主義かを問わず、共産主義に対抗するためには相手国の国内体制を選ばず援助を行った。
しかし、冷戦が終結し、アメリカ主導の国際秩序が形成される中で、旧ソ連諸国への関与の必要性が認識されるようになった。
また、権威主義国家において、軍が内戦や市民の抑圧を助長していることも懸念された。これらを受けて、アメリカの安全保障援助は、文民統制や民主主義の確立を目的として、軍事部門改革のための助言を含むものとなった。
プロフェッショナルな軍隊育成と継続の重要性
武器や訓練提供の効果を向上させるためには、軍事部門改革との組み合わせが重要となる。近年の研究では、軍隊における実力主義の人事昇任システム、現場の創造性・柔軟性を重視する分権的な指揮統制など、自由民主主義諸国のプロフェッショナルな軍隊に特徴的な要素が、戦場において軍事的効果を発揮するのに重要であることが指摘されている。
そうだとすれば、武器援助や訓練支援を行う際、軍事部門改革が伴えば、被援助国軍隊の能力は向上するはずである。民主主義の下での文民統制の利いた軍隊の育成は、その軍隊の戦場での効果を高める。
しかし、安全保障援助の現実は必ずしもそうなっていない。2002年以来、アメリカが計900億ドルもの資金を投入して育成してきたアフガニスタン政府軍は、2021年夏、タリバン勢力に呆気なく首都を奪われた。
同様にアメリカが2004年以降計257億ドルを投入してきたイラク国軍も、2014年、イスラム国に要衝モスルを奪われ敗走した。冷戦後、NATOが訓練、助言、武器売却を行ってきたウクライナ軍も、長らく腐敗に苦しんだ。
その要因を一般化することは難しいが、よく指摘されるのは、アメリカが武器や訓練の提供と引き換えに軍事部門改革を求めるコンディショナリティ(条件)を強く要求しなかったことである。武器は潤沢だがそれを活用するための改革が進まなければ、軍事的効果の低い「はりぼての軍隊」が出来上がるということだ。
とはいえ、安全保障援助が対象国の取り込みを目的とする以上、強硬な要求は当該国を疎外してしまうおそれがある。安全保障援助の難しさは、その目的の二重性に内在する問題ともいえる。
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