少年院現場で感じた驚愕の「親の影響」と「孤独」 おおたわ史絵氏が刑務所で見る現代家庭事情

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処方薬の注射の依存症だった母と向かいあったものの、その病をどうにもできず完膚なきまでに負けて終わり、悔やまれる思いが私にはあります。依存症を疾患としてとらえ、法と医療がタッグを組んで取り組めば再犯率は下がるのではないか。医師として依存症からの脱却に必要なのは制裁でも圧力でも、論破でもないと身に染みてわかっている医師のひとりとして私がやれること。刑務所のお医者さんにならないかとお声がけいただいたとき迷いなく、これをやるために医師になったのではないかと思いました。

最先端医療に携わることも高収入を得ることも興味がなく父が医師だったからという理由で医師になった私は、それまで雲の上を歩いている感じがしたんです。医師になることの意味がようやくわかり、これまでのさまざまな苦しみが腑に落ちた瞬間でした。

成育環境が影響する罪を犯すリスク

薬物関係、傷害、強盗、殺人など受刑者の罪状はさまざまです。ただ、彼らのバックグラウンドに目を向けると総じて、成育環境は影響していると感じます。親や家庭を知らない、片親で義務教育さえまともに受けさせてもらえなかった、誰からも愛された記憶がない……。教育を受けていないから仕事に就くことが難しく、稼ぐことができないから盗むか悪事に加担するしかないのです。

生まれてすぐに父親は逃げ出していて、母親は出産後すぐに自殺した子どもは、人生で誰かに期待されたことも褒められた経験がありません。そういった環境で育ちながら自身のアイデンティティを確立し、恥ずかしくないように迷惑をかけないように生き、人に喜ばれたいし幸せにしたいといった感情を持つのは難しい。犯罪に手を染めることでしか生きられない人がいるのだと、今の職場で実感しました。

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