少年院現場で感じた驚愕の「親の影響」と「孤独」 おおたわ史絵氏が刑務所で見る現代家庭事情

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もちろん、成育環境だけではなく持って生まれた素養や精神面での特徴など複雑な要因が絡みあって罪を犯すリスクが高まるのだとは思います。

それでも、「教育を受ける機会に恵まれず、字を書けない人が現代の日本にどのくらいいるのか」まわりにいないから想像できないと、見て見ぬふりをして生きていくのは残念な気がします。

社会に適応するだけの力がない人がいること、生きづらさを抱えコミュニティに入れず孤独を抱えている人、働くことができない人……成育環境が整っていればそうはならなかっただろう人がいるということを多くの方が知るだけでも、世の中は少し変わるかもしれないと思うのです。

まずは「普通の生活」の大切さを教える

患者が受刑者だからといって、医師としてやるべきことは変わりません。塀の中だろうと外だろうと、病気を探し苦痛を取り除き快適に過ごせるように頭を働かせる。これまで30年やってきた医療と何ら変わりません。

心身は表裏一体で、精神状態が悪いと身体の状態も良くないということがあります。不定愁訴、皮膚に湿疹が出る、お腹を壊す、夜眠れない……。そう訴えてくる彼らに、まずは「普通の生活」の大切さから教えるようにしています。朝起きる、夜は寝る、昼間は学ぶ、働く、規則的に食事をする、病気は治す努力をする。

依存症になったのは、病気になったのはあなたのせいではないけれど、変わろうとしないのはあなたのせいだと気づいてほしい。再犯防止のための生き方を100回教えてダメだとしても、101回目には何かが変わるかもしれない、そのくらいの心づもりで受刑者の治療にあたっています。依存症治療は継続こそが重要で、あきらめてはダメだと思うからです。1人でも多くの人が依存症を理解し、誤解と偏見で彼らを排除しない社会になるようにと願っています。

(構成:中原美絵子)

おおたわ 史絵 総合内科専門医・法務省矯正局医師

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おおたわ ふみえ / Fumie Otawa

東京女子医科大学卒。内科医師の難関 総合内科専門医の資格を持ち、多くの患者の診療にあたる。 近年では、少年院、刑務所受刑者たちの診療にも携わる数少ない日本のプリズン・ドクターである。 近著は『プリズン・ドクター』(新潮社)、『母を捨てるということ』(朝日新聞出版)。

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