もちろん、成育環境だけではなく持って生まれた素養や精神面での特徴など複雑な要因が絡みあって罪を犯すリスクが高まるのだとは思います。
それでも、「教育を受ける機会に恵まれず、字を書けない人が現代の日本にどのくらいいるのか」まわりにいないから想像できないと、見て見ぬふりをして生きていくのは残念な気がします。
社会に適応するだけの力がない人がいること、生きづらさを抱えコミュニティに入れず孤独を抱えている人、働くことができない人……成育環境が整っていればそうはならなかっただろう人がいるということを多くの方が知るだけでも、世の中は少し変わるかもしれないと思うのです。
まずは「普通の生活」の大切さを教える
患者が受刑者だからといって、医師としてやるべきことは変わりません。塀の中だろうと外だろうと、病気を探し苦痛を取り除き快適に過ごせるように頭を働かせる。これまで30年やってきた医療と何ら変わりません。
心身は表裏一体で、精神状態が悪いと身体の状態も良くないということがあります。不定愁訴、皮膚に湿疹が出る、お腹を壊す、夜眠れない……。そう訴えてくる彼らに、まずは「普通の生活」の大切さから教えるようにしています。朝起きる、夜は寝る、昼間は学ぶ、働く、規則的に食事をする、病気は治す努力をする。
依存症になったのは、病気になったのはあなたのせいではないけれど、変わろうとしないのはあなたのせいだと気づいてほしい。再犯防止のための生き方を100回教えてダメだとしても、101回目には何かが変わるかもしれない、そのくらいの心づもりで受刑者の治療にあたっています。依存症治療は継続こそが重要で、あきらめてはダメだと思うからです。1人でも多くの人が依存症を理解し、誤解と偏見で彼らを排除しない社会になるようにと願っています。
(構成:中原美絵子)
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