対して今回、14日時点では、もちろんストーリーはおろか、声優が誰かすらもわからない。さらにはパンフレットすらも売っていない。だから、全身でストーリーに没入できたのだ。これが「こうでなければ」「格別」の理由だ。
「NO宣伝戦略」の前提として、同様に情報が明かされなかった映画『THE FIRST SLAM DUNK』の影響があるらしい。スタジオジブリ代表取締役の鈴木敏夫は、サイト「クランクイン!!」の昨年12月28日の記事の中で、こう語っている。
――「本当に考えました。何にも情報がない方が、皆さんの楽しみが増える。それを先に知っちゃったらね、喜びを奪うことになるんですよ。わかります?」
――「『SLAM DUNK』を見ていてもそうでしょ? 何にもなかったじゃないですか、あれ。僕、あれは頭いいなと思ったんです。勉強になった。どんどんどんどん予想よりね、数字が上がっていくでしょ? あれ、みんな知らなかったからですよ」
また「NO宣伝戦略」という冒険に打って出られた背景には、『君たちはどう生きるか』が複数企業の出資する製作委員会方式ではなく、スタジオジブリが多くの責任を担う単独出資方式で作られたことがあったと伝えられている。
「NO宣伝戦略」に内心でヒヤッとする理由
さて、ここまで数回「NO宣伝戦略」という言葉を使いながら、内心でヒヤッとするのは、私がかつて、広告代理店のマーケティングプランナーだったからである。
就職してすぐの頃だったか、広告マーケティングの基礎として学んだのは「AIDMAの法則」だ。商品やサービスの購入に向けて、生活者は「Awareness(認知)→ Interest(関心)→ Desire(欲求)→ Memory(記憶)→Action(行動)」というプロセスをたどるというもの。頭文字を取って「AIDMA」(注:冒頭のAを「Attention=注意」と置く場合も多い)。
プロセスのしょっぱなは「Awareness(認知)」。知られなければ買われない。当たり前と言えば当たり前。だから認知拡大のために企業は宣伝を打つ必要が出てくる。
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