宮崎駿の人生を変えた「ある有名作家」の正体 ファンも知らない「ラピュタ主題歌」誕生秘話
加藤博子(以下、加藤):サン=テグジュペリ(1900〜1944/作家・操縦士)は、貴族の息子で、幼少より飛行機に憧れて、郵便飛行士になります。第2次大戦中、偵察機の飛行士でしたが、ドイツ軍戦闘機に撃墜されたといわれています。彼は幸福な幼年時代を過ごし、貴族の誇りを胸に、人間が生きることの意味をつねに問い続けていました。
1900年代初頭にはすでに飛行機に乗っていて、緊張感と責任、そして澄んだ夜空を飛行する喜びを味わえる飛行士という仕事を、こよなく愛し、それを作品化していったのです。
呉智英(以下、呉):すごいね。俺は30歳になるまで、そもそも飛行機に乗ったことはなかった。
加藤:大空を飛んで人々の心を届けるという郵便飛行士はすばらしい仕事ですが、当時はまだ過酷な状況で、彼自身、サハラ砂漠に不時着して遭難したことがあります。そのときの体験が『星の王子さま』になるのです。
呉:そうだね。『夜間飛行』とか『戦う操縦士』とか、俺も中学時代に読みました。新潮文庫だったかな。
お金では買えない「3つのぜいたく」
加藤:『星の王子さま』は、いろんな角度から味わうことのできる本です。著者本人が描いた絵がかわいいので、メルヘンと思われていて、読まずに遠ざけている人も多い。私も若い頃には読みませんでした。しかし扉に書かれた献辞を読み、これが深い思いの込められた本であることに気づいてから、何度か読み直していますが、読むたびに印象の変わる不思議な本です。
この世で何が大切なのかが書かれている。飛行士たちの活躍が描かれる『人間の土地』にも、この世の真のぜいたくは何かが書かれている。お金では贖えない真のぜいたく、それは3つある。使命感を抱いて人のためになす仕事、共にいることがうれしいと感じる友と過ごす時間、そして孤独に操縦して眺める澄んだ夜空。それが、この世の真のぜいたくだと。