宮崎駿の人生を変えた「ある有名作家」の正体 ファンも知らない「ラピュタ主題歌」誕生秘話

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加藤:サン=テグジュペリの恵まれた境遇の中における激しい欲望を、宮崎は非常に純粋な人間の欲望として見ている。宮崎も、アニメの中でいろいろ、やらかしているわけですよ。他人のために死んでしまいたいという話がよく出てくる。『崖の上のポニョ』にも、あの人と一緒になれるなら、死の世界でもうれしいというメッセージが組み込まれている。

宮崎は『人間の土地』の「あとがき」で、飛行機が武器に使われることを憎んでいます。地雷を禁止するのと同様に、飛行機で爆弾を落とすことを、有人無人を問わず禁止しろと叫んでいる。

宮崎アニメがはらむ危険

適菜収(以下、適菜):先ほど、加藤さんが宮崎アニメと特攻の関係について指摘されてましたが、死んだ後に世界が残っていると思うから、特攻するわけですよね。自分が死んだら、世界がゼロになるんだったら、死ぬ必要はない。

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加藤:宮崎アニメでは、死んだパイロットたちの飛行機が編隊を成して、高い雲の上に静かに美しく浮かんでいる場面がありますよね。あの隊列の勇壮さに憧れ、そこに加わりたいと感じれば、それは名誉の死への陶酔となる。

適菜:だから、利用されちゃうわけですね、死が。

加藤:それが個人的な思いだけなら自由ですけど、しかしやはり戦争や社会的な力に利用されやすい。その複雑さを零戦に託して製作されたのが『風立ちぬ』ですね。あれほど美しい飛行機が、武器として使われてしまうしかないという痛ましさ。

:そこも含めて、「捨身」の問題に、最終的には、つながってくるよね。

呉 智英 評論家

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くれ ともふさ / Tomofusa Kure

1946年生まれ。愛知県出身。早稲田大学法学部卒業。評論の対象は、社会、文化、言葉、マンガなど。日本マンガ学会発足時から十四年間理事を務めた(そのうち会長を四期)。東京理科大学、愛知県立大学などで非常勤講師を務めた。著作に『封建主義 その論理と情熱』『読書家の新技術』『大衆食堂の人々』『現代マンガの全体像』『マンガ狂につける薬』『危険な思想家』『犬儒派だもの』『現代人の論語』『吉本隆明という共同幻想』『つぎはぎ仏教入門』『真実の名古屋論』『日本衆愚社会』ほか他数。

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加藤 博子 文学者

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かとう ひろこ / Hiroko Kato

1958年生まれ。新潟県出身。文学博士(名古屋大学)。専門はドイツ・ロマン派の思想。大学教員を経て、現在は幾つかの大学で非常勤講師として、美学、文学を教えている。また各地のカルチャーセンターで哲学講座を開催し、特に高齢の方々に、さまざまな想いを言葉にする快感を伝えている。閉じられた空間で、くつろいで気持ちを解きほぐすことのできる、「こころの温泉」として人気が高い。さらに最近は「知の訪問介護」と称して各家庭や御近所に出向き、文学や歴史、哲学などを講じて、日常を離れた会話の楽しさを提供している。著作に『五感の哲学——人生を豊かに生き切るために』。

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