大塚明夫「声優として生き残れない若者の特徴」 下積みができない人は声優なんてやめときな
「今日の現場、一度もリテイクが出なかったんですよ!」
そううれしそうに報告してくる新人が時々いますが、そんなことに喜ぶのはいかがなものかと思います。
新人のうちは、現場でリテイクを出されるのが怖い。それは仕方がありません。口パクを合わせるという、それまでの人生でやってこなかった動作をしなければいけないのですから緊張はして当然です。
しかし、それが高じて「文句言われなきゃいい、言い間違えず、きれいに台詞が時間内に収まったらそれでいい」という気分になってもらっては困ります。
駄目出しがない、リテイクがないということと、「合格点」の演技ができたかどうかは別問題です。もしかしたら「こいつはこれ以上できない奴みたいだから、これで我慢しておくか」と思われているかもしれない。その想像をせずにただ「リテイクなし」という結果に喜んでいる人はちょっと危機感が足りません。
口パクが「合う」「合わない」は重要じゃない
駄目出しやリテイクというものは、その場にある問題をともに解決しようという意志がなければ出されません。ディレクターにも声優にも双方の考えがある。それを持ち寄って、擦り合わせてよりよい完成品を作り上げる場が現場なのです。
もちろん、円滑に仕事を終わらせることは基本的には大事なことでしょう。現場でミスばかりする声優がいたら迷惑です。でも、口パクが合う合わないなんていうのは、実はそんなに大変なことじゃないのです。事前に映像を3度も見れば十分。それよりも、その人物なりキャラクターが持っている空気感をにおわせるためのポイントを探ることのほうが重要でしょう。
私の場合は、アニメであればいかにそのキャラクターを立体的に表現できるか、洋画吹き替えであればその役者の魅力をさらに増幅できるかどうかを事前に考えます。その部分に関する建設的な駄目出しやリテイクをもらうことは大歓迎です。もちろん、相手の言い分が納得いかなくてけんかをしたこともありますが、そうした経験があったからこそ信頼を得た仕事相手もまた大勢います。
重要でない、モブに近い役をとりあえずミスなしで言い終える。それがひかれる演技でなくても、「まあいいや、口パクは合わせてくれるから次もそういう役はまかせよう」とは思ってもらえるでしょう。でもそこで一歩踏み込んだ主張をする。ほかの声優にはできない演技をしようとあがいてみる。そうしたとき、初めて「ん? もうちょい喋らせてみようかな」「違う役もやらせてみようかな」と思われるのです。
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