大塚明夫「声優として生き残れない若者の特徴」 下積みができない人は声優なんてやめときな

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それを自分のほうから放棄して、及第点を取れればいいという考え方になっている人には、じゃあお前さんはどこで主張するんだい、と思います。それが、関係者との飲み会の席である人もいるでしょう。自分の判断で、それを戦略として行っているのであればそれはそれでいいと思います。でも、そのくらいのレベルの人が日常的に仕事をしている以上、私の仕事は途切れません。

「とどこおりなく口パクを合わせてくれる人」ではなく、「大塚明夫」を呼んでくれる人と仕事をしているからです。私より仕事量の多い声優はいくらでもいますが、そのことで危機感を抱いたことはありませんし、これからもないでしょう。私に危機感をおぼえさせるほどの後輩に、どうか出てきてほしいものです。

若い声優は「同じような役ばかり」やるな

今、人気のある声優はたくさんいます。でもその人気がいつまでも続くことはありません。いつかは必ず旬が過ぎる。そのときに何が残るのかといったら、“力”だけです。そしてそれは「技術力」のみを指しません。

声質自体は、歳をとっても基本的に変わらないものです。でも、あるレベルを超えると肉体の劣化が始まります。これは避けようがありません。若いときは体がやわらかいため声帯もやわらかいのですが、歳をとると固くなります。声帯というのは長くやわらかいほど低い音が出るので、歳をとればとるほど基本的には低い声が出なくなっていくわけです。

「いい声」頼りの役者は、こうした劣化に抗えません。肉体の劣化が避けられないからこそ、その後に残る力を持っていないといけないし、より深い芝居をできるようにならなければいけないのです。

今はネット社会ですから、少しでも人気が衰えるとすぐさま「○○は劣化した」などと書かれたりしますが、それは若いときと同じような役ばかりやるからだろう、というのが私の考えです。

若いときに出ていた声が歳をとれば出なくなるのは当然のことなので、本来は役者もやる役も、ともに歳をとっていかなければいけない。しかし、人はどうしても若いときに得た旬をいかに持続させるか、若いままのように見せておくかに苦心してしまうようです。

ある程度の時間はそれでしのげるでしょう。でも、もっと人気のある若い声優が出てきたときにはたと気づくのです。ずっと同じものが続けば人間は飽きてしまうのだ、ということに。

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