大塚明夫「声優として生き残れない若者の特徴」 下積みができない人は声優なんてやめときな

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現場のスタッフたちにも、当然ながら「作りたい」「新しいことをしたい」という欲求はあります。その欲求のはけ口として、「周りの使っていない役者を使う」という手段を選ぶ人がいる。そうすると、新鮮味の薄れた役者にはお呼びがかかりません。

また、歳をとった声優が、年下のスタッフたちにとって扱いづらい存在になってしまうという面もあります。20代、30代のディレクターにとって、50代、60代の声優は正直けむたい。駄目出しもしにくいでしょう。技術だけ高く、キャッチーでない声優となると余計そう思われます。「それでも○○さんじゃないと駄目だ」という判断をされないと、いともたやすく若い声優にとってかわられてしまう。山ちゃん(山寺宏一)などは、そういう意味では歳をとったからといってお呼びが減るタイプではありません。

声優は「技術力だけ」では生き残れない

ですから、実は技術だけで生き残るのはきついことなのです。50の椅子に50人の役者が座っていた時代は、確かに技術さえあればどうにかなりました。今はどんどん声優が若年化しているので、年寄りのキャラクターが出てきたときにも、前述のような理由で若手がキャスティングされてしまったりする。

こうした現状がじれったい、という気持ちもあります。優れた偉大な先輩がたくさんいるのに、彼らはなかなか最前線に出てこられない。悲しむべきことです。そういう方々と、私ももっと競演したいのですが……。

現場でベテラン同士がなかなかそろわない理由は、キャスティングにかけられる予算がどこも限られているからです。ランクの高い声優を1人使えば予算が大幅に減るので、あとのキャストを低いランクの若手にするしかなくなる。だから、一部のスター以外はどんどん世代交代してしまうのです。

洋画吹き替えの世界は世代交代が早いです。30代、40代の役者が中心なので、私などもすでに前線は退いている部類かもしれません。

そして、男性声優に比べて女性声優のそれのほうがさらに早くなります。これには、そもそも女性の役が圧倒的に少ないという要因があります。とくに年配の女性の役は少ない。作る側もお金がないものだから、お婆さんだろうと中年女性だろうとかまわず、ギャラの安い、若い声優にやらせてしまうのです。こういう中で、声優として生き残るのは実に大変なことです。

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