宮崎駿の人生を変えた「ある有名作家」の正体 ファンも知らない「ラピュタ主題歌」誕生秘話
呉:宮崎駿(1941〜/映画監督、アニメーター)は、サン=テグジュペリを尊敬している。
加藤:はい、『天空の城ラピュタ』の「君をのせて」という曲の作詞は、宮崎駿です。「あの地平線 輝くのは どこかに君をかくしているから」の「かくしているから」は、『星の王子さま』の「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているからだよ」という言葉からきています。
呉:確かに美しい。
加藤:『人間の土地』(新潮文庫、1998新装改版、2012再改版)の表紙も宮崎の絵で、あとがき「空のいけにえ」も彼が書いています。
今、若者はなかなか思想書を読む機会は少ないのですが、彼らの思索の共通したテキストの1つに、宮崎駿監督の映画があります。宮崎の死生観には、見かけのかわいらしさや親しみやすさと異なり、かなり峻厳な危険なものがある。愛する人と共になるためなら死んでもいい、あの世でもいいから一緒にいたいという感覚が、いわゆる恋愛劇としてでなく人間同士のひかれ合う思いとして描かれている。
サン=テグジュペリを読んでいない人も、宮崎アニメには小さい頃から親しんでいて、宮崎の死生観の影響は受けているかもしれませんね。しかしこれは特攻精神に近づいてしまう危険性もはらんでいると思うのですが。
サン=テグジュペリと宮崎駿の共通点
呉:サン=テグジュペリは、俺も少し読んだけど、あまりピンとこなかったな。これが、死の問題とどうつながりますか?
加藤:人の役に立って死んでゆく喜びは、何ものにも代えがたい愉悦だというところでしょうか。金や名誉とはまったく関係なく、命がけで飛行機に乗って手紙を届けることに快楽を感じると表明してしまうところが、宮崎とサン=テグジュペリは共通していると思います。
呉:なるほど。
加藤:宮崎も飛行機が好きです。以前、宮崎はNHKのドキュメンタリー番組『世界・わが心の旅』で、サン=テグジュペリが飛んでいたフランスからアフリカに渡る航路をプロペラ機でたどるという、いわば聖地巡礼をしています。感動の涙を流してサハラ砂漠に降り立ち、もう自分はサン=テグジュペリみたいな理想を持つことはできない、しょせん地べたを這い回る白アリにすぎないとつぶやくのです。
呉:熱狂的な愛読者ですね。