観終わった瞬間、ヘトヘトになった。そう感じるほどヘヴィーな作品だった。そして、観てから数日経っても、子役2人の写真を見ると、胸が締め付けられるような気分になる。このような映画体験は初めてだ。
話題の映画『怪物』。2018年、第71回カンヌ国際映画祭で『万引き家族』で最高賞のパルムドールを受賞した是枝裕和監督の最新作。
そして今回の『怪物』も、第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞、クィア・パルム賞を受賞した。脚本は、「東京ラブストーリー」(1991年)、「Mother」(2010年)、「カルテット」(2017年)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(2021年)など、名作テレビドラマを量産し続けてきた人気脚本家・坂元裕二の手による。
スマホ依存の観客を飽きさせない工夫
公式サイトにある「ストーリー」――「大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。それは、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―」。
先に書いたように、ヘヴィーな印象の作品である。特に前半は正直いたたまれなくなる。しかしそれでも、「観ちゃいられない」という気分にはまったくならない。最後まで飽きさせない工夫にあふれているのだ。
言い換えると、スマホに依存気味で、「タイパ」(タイム・パフォーマンス)を気にして、暗闇の中で映像(それもヘヴィーな)を2時間超、観続けることに落ち着かない「ファスト映画層」の首根っこをもつかむような仕組み・仕掛けを持っていると思った。
というわけで今回は、『怪物』を「傑作たらしめたもう1つの理由」と題して、第一義的な理由としての映画の本質(ストーリーや配役など)に続く、二義的な周辺要素としての巧みな仕組み・仕掛けに注目してみたい。
脚本の完成度に加えて、「仕組み/仕掛け家」としてのアイデアに満ちていたこと。このことこそ、坂元裕二がカンヌを、世界を唸らせた理由だと考えるのである。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら