映画「怪物」を傑作たらしめたもう1つの理由 坂元裕二による「分散性」「謎解き性」「時代性」

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まずは「分散性」だ。『怪物』は、第1部・第2部・第3部に分けられる構成を持つ。そしてそれぞれのパートごとに、同一事象を、角度を変えてみるという仕組みになっている。

これ、映画業界で一般的には「羅生門構造」と言われるもの。黒澤明の代表作『羅生門』(1950年)で採用された手法で、同じ出来事を複数の視点から描くことを指すのだが、『怪物』では、複数の角度・視点の転換が、観客の関心をキープさせ続ける効果を持ち得たと考える。

最近のテレビドラマでも、1クールの中を複数に区分することが多い。そして「いよいよ第2章へ!」とあおることで、視聴率の維持を狙う。そう言えば、「大豆田とわ子と三人の元夫」も第1章(第1~6回)と第2章(第7~10回)に分割されていた。

そう考えると、今回の『怪物』の分散性=「羅生門構造」も、視聴率と格闘し続けてきた坂元裕二の経験が活きているとみることができる。そして、結果として観客が、後述するラストのカタルシスへとしっかりと導かれる。

1回観ただけでは整理できないシーン

続いて「謎解き性」。先の「分散性」の中で、第1部・第2部・第3部という個々のパートにおいて、同一事象に対する事実が積み上がっていき、立体的に見えてくる。そして、伏線が次々と解消されていくのだが、注目したいのは、1回観ただけでは、整理できない謎なシーンやセリフがいくつか(も)残されることだ(単に筆者の感度が鈍いだけかもしれないが)。

実際、私は2回観たのだが、2回目の鑑賞でこれほど謎が解けて、その結果、これほど印象の変わる、発見の増える映画も珍しいと思った。

この「謎解き性」のポイントは、鑑賞後、その「謎」について、SNSで検索、会話したくなるということである。

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