年代別で見ると、女性は20~24歳、男性は30~50代に多く、地域では、これまで東京都や大阪府、神奈川県などの都市部に感染者が集中していたが、最近は地方での増加が目を引く。特に北海道は顕著で、5年で5倍以上増えている。
感染症法で梅毒は5類感染症に属し、医師は梅毒患者を診たら都道府県知事に7日以内に届け出る義務がある。しかし「多忙な臨床医が必ず届け出ているかは疑問で、発表されている数値は氷山の一角と考えられます」と尾上医師は指摘する。
増えている背景にあるもの
では、なぜ今これほどまで梅毒が増えているのか。その背景の一因となっているのが、性風俗の広がりだと考えられている。
国立感染症研究所は、「国内の梅毒症例には、性風俗産業の従事歴、利用歴のある症例が一定数報告されている」と報告。世界的にみても、女性の性風俗産業従事者は、梅毒に感染するリスクが高いことが指摘されていて、日本でも同様の傾向がある。尾上医師によると、「梅毒にかかった女性が男性にうつし、その男性が別の女性にうつすという感染状況が起こっている」という。
さらに「マッチングアプリの普及」の影響も大きいとも。尾上医師は「あくまでも想像になりますが」と断ったうえでこう話す。
「コロナ不況で収入が不安定になった女性、孤立した女性がこうしたアプリを使って異性と関係を持つケースが増え、それが梅毒の広がりにつながっているのではないでしょうか。実際に当院でもマチッングアプリ利用の患者さんが増えています」
尾上医師によると、性風俗を仕事とする女性の多くは性感染症対策をしっかりと行っているだけでなく、定期的に血液検査をするなど、何か心当たりがあったらすぐに医療機関を受診しているという。
「一方で、アプリを介して出会いを求めた女性の多くは、性感染症の知識が乏しく、診療を受けられる医療機関がどこにあるかもわかっていません。調べてわかったとしても、“親に知られる”“お金がかかる”といった理由から病気を放置してしまう。それが感染を広めている一因になっていると考えています」
そもそも、梅毒には“感染を広げやすい要素”がある。自覚症状がほとんどないうえ、症状が多様すぎるため、本人が気づきにくく、医師も見慣れていないと正しく診断しにくいからだ。また性感染症ではあるものの、粘膜や皮膚から感染するため、キスや傷口を舐めた程度でも、相手が感染者であれば感染するおそれがある。
ここで改めて梅毒の症状と治療法について、確認しておきたい。
まず、梅毒に感染すると、潜伏期間(3~90日)を経て症状が表れる。典型的な症状は、性器周辺にできる小さなしこりと、足の付け根にあるリンパ節の腫れだ。痛くもかゆくもないので放置してしまいがちだが、そういった症状に気付いたら、3週間ぐらい前に性的接触がなかったかを振り返ったほうがいいだろう。
心当たりがあれば、医療機関の受診を。受診先は泌尿器科や皮膚科、婦人科で、性感染症専門医のいる医療機関が望ましい。
医療機関では、問診や診察、血液検査などが行われた後、薬(後述)が処方される。治療費には健康保険が適用され、薬代込みで5000円前後。一方、プライベートケアクリニック東京のように自由診療を行っているクリニックもある(同院では治療費は3万円前後になる)。
「梅毒を疑って速やかに検査をすることは、自分のためであり、周囲に感染させないためでもあります。最近は精度の高い郵送検査もあります。受診しにくい場合は、そういうものも活用してみたらいかがでしょうか」(尾上医師)
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