「反戦」の弱い指導者から「領土解放戦争」の象徴へ ゼレンスキー大統領の変貌とウクライナの課題

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「21世紀のチャーチル」にも喩えられるゼレンスキー大統領だが、2019年の大統領選前は「反戦」の立場だった(写真:代表撮影)

【連載第2回:ウクライナ反転攻勢の行方】

プーチンの対ウクライナ戦略目標は、同国をロシアの「影響圏」に留める、すなわち、属国化することで一貫してきた。ウクライナのEU接近が顕著となった2013年以降、ロシアは、非軍事・軍事手段のさまざまな組み合わせでこの目標を追求した。

その意味で、ロシアが軍事占領してきた「ドンバス」と呼ばれるドネツク州やルハンスク州は手段であって目的ではない。プーチンは、これらの州に設置した傀儡の「人民共和国」をウクライナの国家体制に埋め込み、EU・NATO加盟に拒否権を発動させることで、戦略目標を達成しようと試みた。

一方、ウクライナでは、2019年にドンバス和平を掲げるヴォロディミル・ゼレンスキーが大統領に就任した。本稿では、あまり知られていない全面侵攻以前のゼレンスキー政権の対露政策の変遷、ロシア情報機関の浸透を振り返り、民主的選挙によるリーダー交代が侵略戦争に与える示唆について考えてみたい。

ロシア情報機関の浸透

昨年2月以降の全面侵攻は、戦車やミサイルの古典的戦争とされる。しかし、その中で最も枢要な作戦は、キーウ近郊のホストメリ飛行場を制圧して空挺部隊がウクライナ首脳部を強襲し、ロシア連邦保安庁(FSB)第5局が傀儡政権を設置する非公然の政治工作であった。

しかし、FSBはウクライナ側の抵抗を過少評価していた。同作戦は、ウクライナの猛反撃にあい、失敗に終わった。ロシアはキーウ州を含むウクライナ北部からの撤退を早々に決め、その後「特別軍事作戦」はプーチンの国内的な面子を保つ領土獲得戦争へと様相を変えていった。

一方、現在ウクライナの反転攻勢の主要な舞台となっている南部は、異なる展開を見た。2014年からロシアが不法占拠するクリミア半島に接するヘルソン州は、ほとんど抵抗もなくロシア軍の手に落ちた。同州ではロシア軍や占領行政府への利敵協力者が多く出ただけでなく、防諜機関のウクライナ保安庁(SBU)の内部にも複数のロシアのエージェントが浸透していた。

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