「反戦」の弱い指導者から「領土解放戦争」の象徴へ ゼレンスキー大統領の変貌とウクライナの課題

✎ 1〜 ✎ 49 ✎ 50 ✎ 51 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

それでもゼレンスキーによるドンバス和平の模索は続いた。2020年7月、ウクライナ国防省情報総局(GUR)とSBUが数年かけて準備・実行した「民間軍事会社ワグネル」兵士捕獲作戦は、ゼレンスキー側近がロシアとの和平交渉へ与えうる影響に配慮して作戦を1週間延期したことで計画が露見して失敗した。

交渉は膠着し、ゼレンスキーの対露政策は、前政権と似かよったものになっていく。そして昨年2月の政権転覆の試みを目の当たりにして、ゼレンスキーは、プーチンの目標は、そもそもドンバス紛争の解決ではなく、ウクライナの属国化だと最終的確証を得たのである。

画像をクリックすると連載記事一覧にジャンプします

一方、プーチンの誤算は、「弱い」ゼレンスキーが、キーウを離れることなく、国民に祖国防衛を、欧米諸国に武器供与を呼びかけたことであった。

反転攻勢と選挙の行方

ロシアでは来年3月に形式的な大統領選がある。ロシア大統領府は、プーチン出馬を前提にさまざまなシナリオの検討を始めており、今年9月にある地方選で国内向けスローガンをテストするとみられる。プリゴジンの反乱を受け、国内の引き締めを一層強化し、「内戦を許してはならない」と「ロシアの団結」に訴えるだろう。

ロシアは、昨年秋に違法な「併合」を宣言したウクライナの4州で、たとえ戦時下でも偽の「地方選」を実施できるように法改正を行った。一方、ウクライナは、戒厳令を延長して、10月の議会選を延期せざるをえないだろう。

来年春の大統領選の実施も、反転攻勢の進捗にかかっている。世論調査での人気が示すとおり、ゼレンスキーが出馬すれば再選は固い。ただ、2019年との大きな違いは、ゼレンスキーはいまや「反戦」ではなく、国民の8割強が支持する「領土解放戦争」の象徴であるということである。

他方、敵国のエージェントを防諜の要職に任命した政治責任を含め、ゼレンスキー政権がロシアの全面侵攻へ十分に備えていたかという点は、選挙で最もセンシティブな争点となる。

野党は、昨年2月以降、国民統合の観点からゼレンスキー批判を抑制してきた。選挙戦になれば批判は復活する。ロシアの選挙介入は、野党によるゼレンスキー批判や国民の不満を煽ることで行われるだろう。

反転攻勢後にありうるゼレンスキー2期目は、これまで自らを批判してきた「24%」を取り込み、一層の国防強化、道半ばの汚職撲滅、戦後の復興に向けたプロの政策集団を作れるかが鍵になる。第1期ゼレンスキー政権の失敗を繰り返してはならない。

(保坂三四郎/国際防衛安全保障センター【エストニア】研究員) 

地経学ブリーフィング

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事