筆者は9月14日にロシアの政治学者であるアレクサンドル・カザコフ氏(与党「公正ロシア」幹部会員〈非議員〉)と、今後のロシアの対ウクライナ戦略について議論した。
打倒対象はウクライナの犯罪的体制
カザコフ「今回の特別軍事作戦は3段階に区分される。第1段階は電撃戦で首都キエフ(キーウ)に接近し、ゼレンスキー政権を崩壊させることで、これは失敗した。第2段階は、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の解放で、ここでの目標もウクライナを降伏させることだ。ロシア軍の目的はウクライナ軍を殲滅(せんめつ)することではない。ウクライナの将兵は同胞であり、将来ロシア国民になる人々だからだ。
プーチン大統領がドンバス地域(ウクライナのドネツク州とルガンスク〈ルハンシク〉州)の解放を『急ぐ必要はない』と述べているのは、ウクライナ側の犠牲者を極少に抑えたいからだ。すでにルガンスク人民共和国は完全に解放された。ドネツク人民共和国も50%以上の地域を解放している。もう少し時間がかかるが、ドンバス地域の完全解放を実現する。
第3段階はウクライナの大都市の制圧だ。当面は、ニコラエフ(ムィコラーイウ)を制圧し、(モルドバ共和国東部でロシア軍が駐留する)沿ドニエストルと連結することだ」
佐藤「ニコラエフに続いてオデッサ(オデーサ)を制圧するのではないのか」
カザコフ「オデッサは迂回する。ニコラエフと沿ドニエストルを連結しオデッサをウクライナから切り離す。オデッサについてはプーチン氏から空爆を差し控えよとの指示が出ている。さらにザポロジエ(ザポリージャ)とドニエプロペトロフスク(ドニプロ)を制圧する。とくにドニエプロペトロフスクにはウクライナ最大の軍事工場『ユージュマシュ』があり、ここの制圧が戦略的に重要になる」
佐藤「ハリコフ(ハルキウ)はどうなるのか」
カザコフ「ハリコフの制圧は南部地域の軍事作戦が終了した後になる。ハリコフにはロシアに共感する人が多く、ロシアへの統合が早く進むと考えていた。それゆえに軍の配備も手薄になっていた。この隙を突かれてウクライナ軍にイジュームなどが制圧されてしまった。現在のロシア軍の力では、ウクライナ軍をはね返せない。ハリコフの制圧は遅れることになる。
第3段階でもロシア軍の目標は変わらず、ウクライナを降伏させることだ。これまでロシア軍は第2段階を終了してから第3段階に進む計画だったが、ハリコフでのウクライナ軍の攻勢を踏まえて、第3段階の始動を早めることになると思う。今秋にもニコラエフへの本格的な攻撃が始まる。第2段階と第3段階が同時進行することになるだろう」
佐藤「ロシアが戦争を宣言し、総動員体制をとる可能性はあるか」
カザコフ「ロシアが戦争を宣言することはない。特別軍事作戦という法的枠組みの中で戦う。プーチン氏はウクライナ人を兄弟と考えており、兄弟を相手に宣戦を布告しない。打倒対象はウクライナの犯罪的体制であり、ウクライナの民衆ではない。総動員体制も敷かず、平時体制で将兵を確保することになる」
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