ブランド魚ではトップ級の知名度。今は安定的に量産するため、選抜育種に懸命になっていた。

豊田通商が沖縄県に造った「ツナドリーム沖縄」で泳ぐクロマグロの人工種苗(写真:豊田通商)
日本の漁業が危ない。生産量はピークから7割減。輸入金額も増え、海外勢に買い負けている。一方、魚を獲りすぎず、資源を安定させなければ漁業の未来はない。
『週刊東洋経済』6月1日号の第1特集は「全解剖 日本の魚ビジネス」。われわれは魚をいつまで食べられるのか。
一時ブームになったあの近大マグロは、今、どうなっているのか――。
「実は近大マグロの稚魚の出荷は近年ほとんど実績がなくなってきています」。「近大マグロ」の養殖事業の現状について聞いた際、近畿大学側は正直に明かし、筆者はまさかと面食らった。
同大学が2002年に世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功して以降、近大マグロと言えば、数あるブランド魚でも知名度はトップクラスを誇る。「近大マグロ」「近大生まれ」というネーミングが付くと非常に販売しやすいため今でも偽物が出回るほどだ。
しかも近年はSDGs(持続可能な開発目標)、サステナビリティ(持続可能性)、ネイチャーポジティブ(生態系回復)の考えが社会に浸透。天然の成魚、幼魚などの天然種苗に依存せずに養殖ができ、人工種苗を使った「完全養殖」への関心が世界的に高まっている。こうした時代の流れもあって、近大マグロの養殖事業は、てっきり順風満帆と思い込んでいた。
人工種苗の導入率はわずか1割
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