既視感を感じさせるチンパンジーの「派閥と政治」 なぜヒトは常に「集団の力学」を気にするのか

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1970年代前半にタンザニアのチンパンジーの個体群を観察した一連の研究からは、交友関係の移り変わりが運命にどのような影響を与えるかがわかる。

その研究の核心である対立の中心となるのは3頭の雄だ。アルファ雄のカソンタは「きわめて攻撃的で影響力のある」チンパンジーで、6年ものあいだ群れをほぼ支配していた。そのあいだ、直属の部下であるソボンゴから挑発を何度か受けてきた。

カソンタが度重なる挑発を受けても、それだけ長期にわたってアルファ雄の地位を維持できたのは、地位の低い第3の雄、カメマンフの支援を受けてきたからだ。

ほかのメンバーとは違って、カメマンフは小柄で、トップをめざして戦っても雌と交尾できる望みはなさそうだ。しかし、彼は腕力が足りないところを、知力で補った。時がたつにつれて、カメマンフは自分に有利になるように、カソンタとソボンゴの対立をあおったのだ。

どちらかの雄の恩恵を受けるのではなく、気まぐれに忠誠心を示す戦略をとり、支援する対象の雄をころころ変えていた。それによって序列が不安定になり、2頭の対立がいっそう悪化した。

2頭の雄は対立のことを考えると、カメマンフを仲間はずれにするわけにはいかない。支援してくれそうな雄がいるかいないかが、戦いの勝敗を分ける可能性があるからだ。

この対立をあおる戦略によって、カメマンフは上位の雄たちから寛容に接してもらうことができ、支援の見返りに集団内の雌と交尾する権利を得た。その支援がどれだけ気まぐれだったとしてもだ。

チンパンジーの「政治的な駆け引き」

この研究は性質上、裏づけが難しい事例であるのは確かだが、その後の研究で、チンパンジーの社会においてリーダーの進退に影響を及ぼす政治的な駆け引きの重要性が確認された。

忠誠心が移り変わり、昨日の友が今日の敵になりうる世界では、他者からの脅威(「社会的な」脅威)の兆候に細心の注意を払い、集団内の他者どうしの関係に目を光らせ、将来の問題になりそうなときにはその関係を壊すことさえ必要になる。

たとえば、野生のチンパンジーに関する最近の研究で、他者どうしの毛づくろいをそばで見物している個体がそのやり取りをじゃまする行動が、よく観察された。

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