徳川家康「泣き顔」晒して天下取りに至った理由 トップが気弱で臆病であることのメリットは?

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長らく戦役図論が通説でしたが、近年は礼拝図論が優勢です。「伝承であり、史料的根拠は存在しない」として戦役図論は否定されています。一方、家康の容姿が座禅の一種である半跏思惟をしており、表情は「忿怒」を表しているとの見解がなされ、礼拝図論が新説として支持されています。

しかし、繰り返しますが、表情分析の知見からは、怒り表情がベースとなる忿怒表情ではなく、悲しみ・驚き・恐怖の混合表情です。重要な場面で、実在の家康の感情がどのように揺れ動いたかは、わかりません。しかし、このドラマのように「気弱で臆病」な家康だったとしたら、戦役図論もさもありなん、と思われてきます。

悲しみ表情と恐怖感情が天下をとるうえで役立つ?

さて、「気弱で臆病」な家康ですが、史実として結果的には天下をとるわけです。ドラマの後半で天下をとるプロセスがどのように描かれるか楽しみですが、ここで表情分析的な想像をしてみます。

ひとえに、泣き顔を臆せず周囲に見せる人柄と恐怖感情を抱きやすい性格が、天下人となるうえで無視できない役割を果たしていたのだと想像します。泣き顔、特に眉の内側が引き上げられることにより形作られるハノ字眉を目にすると、私たちは、その人を助けたくなる心性を持っています。人間に対してだけではありません。保護施設にいる犬の中で、この眉の形に見える表情をする犬は、しない犬に比べ、新しい飼い主が見つかりやすい、という知見すらあります。

とはいえ、戦国時代。弱々しい泣き顔だけで、周囲に助けられてばかりでは、主君として心もとない。尊敬も信頼も集められないでしょう。実績が伴わなければなりません。そこで、恐怖感情です。恐怖は、脅威を敏感に察知するゆえに抱かれます。そして、その脅威が現実とならないための策を講じるのに役立ちます。私たちが、将来の病気や事故に備え保険に入るのは、未知の脅威に恐怖を抱くからです。多くの恐怖を抱けるというのは、脅威の転がり方にさまざまな仮説を立て、それぞれに予防策を立てられる、というわけなのです。

家康は、脅威に面して自身で策を考えるだけでなく、悲しみ表情を見せることで周りからも多くの策を得ることができた。そして、脅威に敏感であるからこそ、多くの策の中にある最良の策に対する嗅覚が鋭く、数々の戦いに白星を積み重ねていった、そんな想像ができます。ドラマの中でも、家康が泣き言を言う、あるいは、苦悩・苦痛で顔をゆがませているとき、周りから助言や献言がなされ、それをもとに決断を下し、行動していく場面が観られます。

さてさて、『どうする家康』後半。家康は、「気弱で臆病」のままなのでしょうか。天下人になっていく過程で、どんな変化が見られるのでしょうか。どんな出来事が家康の感情を動かし、その揺れ動きが周りにどう波及し物語が展開していくのか、物語の後半も注目です。

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