憂鬱な人は「ストレスが役に立つ」ことを知らない 臨床心理士が説く「プレッシャー」の上手な活用法

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可能なら前もって練習しておくのが有益だ。タスクのプロセスとそれを行うときの感情に慣れるために、当日、「何に集中し何を期待すべきか」を思い出すための言葉を、事前に用意しておこう。

また、直面する課題と失敗する可能性に応じて、リフレーミングのスキルを用いて、失敗の認識を変えるのも有益だ。

失敗への対処の仕方

もしわたしたちが十分に教わっていないことがあるとしたら、それは失敗への対処の仕方だ。失敗や挫折を、自らの人格や自尊心と結びつけると、些細な失敗でも、羞恥、諦め、退却、引きこもりを引き起こし、耐え難い感情を封じ込めたくなるだろう。これは完璧主義者によくあることだ。完璧主義者は、他者は常に完璧を求めると考え、他者の要求を十分満たす結果を出そうとする。自らの失敗が些細で、一時的なものであっても、失敗した自分は敗者だと考える。

しかし、人間は本質的に不完全であることを認識し、失敗しても人格を攻撃したりせず、その瞬間の具体的な出来事に焦点を当てるようにすると、感情は違ってくる。自分は永遠に敗者だと思い込んで絶望するのではなく、個々の判断や選択に注目することで、どこで間違ったのかを自分に正直に振り返ることができる。

重要なのは、そうしても、わたしたちは依然として自らの行動の責任を負っていることだ。セルフ・コンパッション(自分自身を思いやること)はわたしたちを責任から解放するわけではない。

そうではなく、特定の過ちを独立した出来事として捉え、焦点を当てることにより、そこから自由に学び、自分の価値観に立ち返ることができるようになる。しかし、セルフ・コンパッションが失敗から学び、前進するための道となる一方で、羞恥心はわたしたちを麻痺させ、前進できなくさせる。

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失敗したせいで恥を感じるときには、集団による受容と、それゆえの生存が脅かされるように感じる。この感情は消耗をもたらし、事態を改善しようとする気もなくなる。なぜなら、問題は特定の行動や選択にではなく自分にあると思い込むからだ。

世の中に出て、リスクをとるようになると、恥をかくことも増えるだろう。そのようなときには、自尊心を損なうことなく、失敗から学ぶことのできる安全な場所が必要とされる。その場所は自分の心であるべきだ。

愛する人が苦しんでいたら、わたしたちは思いやりを示す。彼らにとってそれが必要だとわかっているからだ。そうであれば、自分が転んだら自分に対してもそうするべきだ。それは再び立ち上がり前進するための最も確かな方法だ。

ジュリー・スミス 心理学者、臨床心理士

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Julie Smith

オンラインでの発信やカウンセリングが人気を博し300万以上のSNSフォロワーを持つ。心理学・精神医学に基づく適切な知識を動画でわかりやすく届ける活動はBBC等にも取り上げられる。

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