憂鬱な人は「やる気が出る仕組み」をわかってない 臨床心理士が説く「モチベーションを育てる」方法

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<ストレスを管理する>

行動を起こすには、モチベーションを高めるだけでなく、誘惑や、目標と逆の方向へ進みたくなる衝動に打ち勝つことも必要だ。

たしか3歳か4歳の頃、祖父母の家を訪れると、祖父が動かなくなった芝刈り機を裏返して、刃の間に詰まった草を引き抜いていた。祖父はわたしへ言った。「絶対、その赤いボタンを押しちゃいけないよ!」

わたしは芝刈り機の横に座り、赤いボタンを見つめた。押しちゃいけない、押しちゃいけない。それを押したら、カチッといい音がするのだろうか、とわたしは考えた。ボタンの表面はとても滑らかに見える。押しちゃいけない。まるで磁石に引き寄せられるかのように、そのボタンを押した。途端に大きな音がして、芝刈り機の刃が動き始めた。運良く、誰も指を切り落とされずにすんだが、わたしはひどく叱られた。

誘惑に負けないために

望ましくない行動に焦点を合わせるのは、有効な戦略ではない。では、いい方向に変わろうとするときに、誘惑に負けないためには、何が助けになるのだろうか。

強力な戦略の1つは、ストレスをうまく管理することだ。ストレスが低く、心拍変動が高いときに、セルフコントロールは最もよく働く。心拍変動とは、心拍の間隔の変動のことで、高い(すなわち、心拍の揺らぎが大きい)ほうが正常だ。朝、ベッドから出たときやバスに向かって走るとき、鼓動は速くなり、その後、徐々に遅くなる。体は必要な活動に備えて準備し、それが終わると、休息や回復のために落ち着くのだ。しかしストレスの多い状況では、心拍は1日中速いままになる(すなわち、心拍変動が低い)。

誘惑に打ち勝ち、意志力を最大限に発揮するには、体と心を落ち着かせる必要がある。ストレスが強いと賢明な選択ができなくなる。さらには感情に基づいて行動し、目標から目を逸らしがちになる。つまり、睡眠不足や、うつ、不安、食欲不振の状態にあると、心拍変動は低くなり、目標を達成する可能性も低くなるのだ。

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