「65歳の定年までいて何が悪い?」50代社員の憂鬱 「定年までいる社員」がダメなわけではない

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境界内に「仕事」があることは重要ですが、ライフステージによって「仕事」の解釈を変えることもできます。

たとえば、リタイアの迫った人が、それまでは境界内にあった“有給の仕事”を外に排除し、代わって“無給の仕事(ボランティアなど)”を入れることで、「リタイアしたらどうしよう」というストレスの雨を回避し、「これからボランティア活動に最善を尽くそう」と生きるエネルギーを取り戻せるようになります。ボランティアに精を出すことで、幸福感を持続させるのです。

件の調査の、ボランティア活動や保育・介護、町内活動などの、無償労働、社会活動、地域交流に参加する「ヘルプ型」の人ほど昇進意欲も高いという結果は、まさに彼らが「仕事」の解釈を変えたことを意味しています。それまでの「仕事=有給の仕事」を、「仕事=有給・無給の仕事」に変えた。「会社だけが人生じゃない」と思考を変えたことを示唆する結果です。

会社員をあきらめなければいい

会社=COMPANY(カンパニー)とは、「ともに(COM)パン(PAINS)を食べる仲間(Y)」です。「個」ではなく「チーム」です。「お互い様意識=ヘルプ型」のある人は、会社というコミュニティの一員であり続けようとした人たちです。

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そこに「会社だけが人生じゃない」という思考が掛け合わされたことで、昇進意欲=能力発揮の機会を手放さずにすんだ。一見矛盾しているように見えるかもしれませんが、キャリアが広がったのです。

彼らは決して「会社員」をあきらめてはいません。年齢を重ねて50歳にもなり、役職が高くなると、「人に頼るなんて弱い奴がやることだ」などと思いがちです。しかし、傘を借りる勇気があれば、世界が変わります。それまで「時間がない」「忙しい」を言い訳にしてきた、会社の外の社会活動に具体的にかかわると、「私」が変わります。

「ずるずる会社に残る自分」を卑下せず、会社員をあきらめなければいいのです。一つだけ条件があるとすれば、四番バッターを目指すのをやめて、守備に回ること。打球がどんな方向に飛ぼうとも、確実にキャッチする技を磨いてください。

河合 薫 健康社会学者・博士、気象予報士

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かわい かおる / Kaoru Kawai

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究にかかわるとともに、講演や執筆活動を行っている。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。2018年4月に、無責任な上司、仕事と家庭の両立、長時間労働などの職場の問題を考える『残念な職場』(PHP新書)を刊行。

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