あらゆるデジタル製品がネットワークに繋がっている昨今、製品の機能が発売後にアップデートされることは珍しいことではない。しかし、高級オーディオの世界は(やはり一部にはラディカルな製品もあったが)、音質のチューニング、追い込みが重要になる。
一度作ったものは何を変更しても音が変化してしまうもので、ソフトウェアの組み方、処理順を変えただけでも音は変わる。実際、オーディオ製品をソフトウェアアップデートするという考え方は、ごく最近のものだ。デジタルオーディオ製品の開発とコンピュータソフトウェア的な開発アプローチは同じようでいてまったく異なる。
そんな相容れない要素を上手に組み合わせ、新しい価値として引き出せたのは、ギラード社長がソフトウェア、ネットワークのエンジニアリングと、家業であるメカ設計、高精度加工、高音質化ノウハウといったオーディオメーカーとしての価値の両方について、ノウハウや技術的背景も含めて理解できていたからだろう。
ギラード社長はネットワークプレーヤーのKlimax DSを”Digital Stream(DS)”シリーズとしてラインナップを拡げ、複数タイプの機器を揃えるといったハードウェアの充実だけでなく、家庭内ネットワークで音楽を配信するサーバー、音楽再生を制御するパソコン/タブレット/スマホ用のコントローラーといた周辺ソフトウェア、それにDSシリーズの内蔵ソフトウェアを継続的に改良することで、既存顧客に対して(その製品が持つ能力の範囲内で)最大限の機能性を提供し続けてきた。
ハイレゾオーディオの時代だからこその発想転換
パソコン、スマートフォンなどの世界なら”当たり前”と一蹴されるところだろうが、上位製品になればプレーヤーだけで240万円、システム全体では1000万円を大きく越えるラインナップがあり、ローエンドにはオールインワン製品も持つ。そんな幅広いプライスレンジすべてに、それぞれのクラスごとの高音質を維持しながら均質なサービスを提供したのは、おそらく彼らが初めてだった。
そのLINNが、オーディオシステムに残された最後の問題=デジタル情報をどの段階でアナログ化するか、に対して合理的発想から取り組もうとしたのは必然だった。
アナログ信号が音源だった時代は、その鮮度をいかに保つかがオーディオ機器の価値だった。これはCDの時代も基本的には同じと言っていい。ところがコンピュータ、ネットワークといった要素が入ると価値観を変える必要が出てきた。それを先取りしたのがDSだったと言えよう。
DSが生まれた後、オーディオ世界は徐々に変化し、昨今は”ハイレゾ音源”といわれる高精細オーディオファイルを、インターネットを通じて流通させるエコシステムが、とりわけオーディオファン向けにも浸透してきた。
DSはそうした時代を見越し、物理的なCD、SACDといったメディアを生産し、世界中に流通させなくとも、世界中の人たち音楽ソフトを供給できるインフラが生まれるだろうことを期待したシステムだったと言えるだろう。もちろん、アナログ音源が完全になくなるわけではないが、今やデータファイルとして音楽を管理するのが当たり前の時代だ。
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