最高240万円!LINNの音は何が違うのか
高級オーディオメーカーの超サバイバル術

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さて、そんな伝統的な、そしてハイエンドからカジュアル層まで、幅広くファンを持つLINNが、大きくメーカーとしてのスタンスを変え始めたのは、アイヴァーの息子で現在は社長を務めるギラード・ティーフェンブルンが、勤めていたノキアを辞めてLINNに参加するようになってきてからだった。

LINNはもともと技術的な知見と合理的な経営判断といった、企業経営に不可欠な要素をしっかりとこなしつつ、一方で職人気質のオーディオメーカーとしてより良い製品をこだわって生産してきたメーカーだ。しかし、それだけであれば、昨今のコンピュータネットワークとつながり始めたオーディオ技術トレンドには追従できなかったかもしれない。

LINNの興味深い点は、メカニカルな設計技術、アイディアと、高精度の加工技術、それに音の質を整えるノウハウやセンスといった、創業者以来の”LINN Productsの本質的価値”を損ねることなく、率先してオーディオ業界の進む方向を照らしてきたことだ。トレンドに追従するのではなく、自らが積極的に変化することで、伝統的な自社の強みも活かせると考えたからだ。

デジタルオーディオの時代の終わり

LINNの創業以来の強みで勝負できたのは、デジタルオーディオの時代までだ。”デジタル”というが、デジタル信号を読み取り、リアルタイムにアナログへと変換するプロセスには、いわゆる職人芸が入り込む余地が大きい。むしろ、そうした側面の方が大きいほどだ。より高音質な製品に作り込むことにこそ価値があった。

しかし、音楽ソースがコンピュータネットワークで流れるようになった時、オーディオの世界は変化するのではないか。オーディオのデジタル信号とコンピュータで扱うデジタルデータは、概念としては極めて近いが、その扱いは異なる。

LINNは2006年、経営危機に陥った翌年に、その後のオーディオ業界のトレンドを先取りしたハイレゾ(という言葉は当時はなかったが)ネットワークプレーヤーのKlimax DS(日本価格240万円)を発売する。それまでにもコンピュータネットワークにつながるオーディオプレーヤーは存在したが、利便性を追求した製品が中心であり「高音質と未来のオーディオトレンドを照らす」といったコンセプトで打ち出したメーカーはLINNが初めてだった。

ごく一部のラディカルなメーカー/ブランドを除き、オーディオ信号を汚すノイズ源としてコンピューティングの要素を嫌っていたハイエンドオーディオメーカーが多い中、LINNはむしろ積極的にネットワークを活用した。それによって、メカニカルな不安定さを排除してノイズ対策を徹底し、ネットワークオーディオ化をより高い音質を目指す礎としたのだ。

2代目の社長を2008年から務めているギラード

当時のインターネットでのオーディオ配信は、カジュアルな圧縮音源が中心の時代だ。今では世界中のレーベル、とりわけ音質にこだわるレーベルがハイレゾ音源を配信しているが、当時はまだCDからのリッピング(パソコンを使ったデータ取り込み)が音源確保の中心だった。ハイレゾ音源は、自社レーベル(LINNは英国でも比較的大手の独立系レーベルを保有している)から積極的に配信した。

こうした一連の、業界トレンドを先取りする動きを主導したのが2代目のギラード・ティーフェンブルン社長だった。

ギラード社長は元々、ソフトウェアエンジニアだった。プロ向けのオーディオ、ビジュアルツールを開発するアビッド・テクノロジーでキャリアをスタートさせ、その後はノキアグループが独自の携帯電話向け基本ソフトとして開発していたシンビアンのプロジェクトに参加。その後、2003年に家業であるLINN Productsの開発部門を任されることになる。

2代目は父親が築いてきたLINNの価値に、ソフトウェアエンジニアとしての知見を加えた。それが今のLINN Productsの価値へとつながっている。

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