そう、カリスマのカギは、実はこの「低音」なのだ。デューク大学が792人のCEOを対象に行った研究は、低音を持つ男性CEOはそうでないCEOと比べ、より規模の大きな会社を経営し、1年で18万7000ドル(約2000万円!)も多く稼ぎ、より長い間、トップの座を守れる、という驚きの結果であった。
ITやベンチャーなどエネルギッシュさや情熱が重視される業界では、若々しいやや高めの声が効果を発揮する、という説もあり、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ氏など、低音がそれほど特徴的とは言えないカリスマ経営者もいる。しかし、一般的には、威厳と落ち着きのある低音を駆使できる人がより大きな成功を収められる、というのが定説のようだ。
アメリカの大統領選挙では、1923年以降、常により低い声の候補者が勝利を収めてきた、という説もある。イギリス最初の女性首相サッチャーも、低音を磨くためにボイストレーニングを受けたことで知られている。YouTubeの動画を見ていただくと、そのBefore、Afterがよくわかる。
なぜ、低い声に魅かれるのか
低音は政治やビジネスの世界で威力を発揮するだけではない。異性を惹きつける魅力の一つでもある。数々の研究が証明しており、例えば、①女性は〝短期的な″パートナーとしても低音の男性を好む、②低音のアメリカ人男性は高音の男性より、多い数の女性と性的関係を持てる、③アフリカのある種族では、低音の男性がより多くの子孫を残す、などの結果が出ている。それだけではない。子供を叱る時など、いつもは使わない低く威圧感のある声を使うと効果はてきめんだ。
それでは、なぜ、低音がカリスマ性や魅力に結びつくのだろうか。思春期に、男性ホルモンの増加が咽頭部に変化をもたらし、少年の声が低くなることからも、低い声が男性ホルモンと関連性があるという理解は人類の頭の中に刷り込まれている。また、声の力強さは咽頭部(声帯を含む)や声を共鳴させるための体の中の空洞部(口の中など)の大きさと関係するが、そういった大きな声帯や空洞部を持つ人々は身体的にも大柄の人が多い。力強い声を持つ人は大きな体を持ち、生存能力が高い人、という本能的な連想が働く、というわけだ。
プレゼンやスピーチ、その他のコミュニケーションの研修等で、「声を大きく」などと言われたことはないだろうか。筆者も、日本でとある有名なセミナーにプレゼン研修を受けに行ったが、講師が「はい、大きい声で。ジェスチャーつけて!」と繰り返すのに辟易した覚えがある。きちんとした発声練習なしで、大きな声を出そうとするのは声帯を痛めるだけで、お勧めできない。
プレゼンなどで重要なのは、大きな声を出すことではない。最も大切なのは「声に幅を持たせること」だ。昨年10月、UCLAは「声の高低の幅のある人が『より、支配力があり、カリスマ性がある』」という研究結果を発表した。研究チームは、イタリア、フランス、ブラジルなどの政治家の声を分析し、どのような印象を与えるのかを調査したのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら