「3浪で東京藝大合格」心病んだ彼女の孤独な戦い 漫画家「あららぎ菜名」さんが経験した浪人生活

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そんな傷心の彼女を立ち直らせ、3浪を決断させたのも、美術の力だったのです。

「ある日、いつものように湘南の海岸に夕方までいたら、海に夕陽が重なったのです。それがあまりにも綺麗で、もう一度昔のような“描きたい”という気持ちが湧いてきました。帰りに花を一輪買って、子どもの頃のように描いてみたら楽しいなって思えたんです。だから、この1年はもう受験のために絵を描くのをやめて、好きな絵を楽しもうと思ったんです

これが「絵が好きなことが大事」という東京藝大受験の本質に気づけた瞬間でした。

あららぎさんの色彩構成の作品(あららぎさん提供)

一旦受験から離れることで気づけたこと

あららぎさんは、自分自身が3浪してしまった原因をこう振り返ります。

目の前のことに一点集中して、冷静に自分を引いてみることができなかったのです。切羽詰まって精神面を壊してしまったのが敗因でした。だからこそ、それまで遊びの時間をまったく取らなかったのですが、3浪ではメリハリをつけました。1日1時間は映画を見たり、本を読んだりする時間を作り、受験を続けるうえで一番大事なメンタルを、本番で最高潮に持っていくようにコントロールしたのです

「受験は自分だけと向き合う孤独な戦いだからこそ、ご褒美をあげることが大事だと気付けました」と当時を振り返ったあららぎさん。一旦リセットの期間を置いたからこそ、俯瞰して、自分自身を見て管理できるようになったそうです。

自分のペースで受験するという3浪目の方針はあららぎさんに合っていました。

今までと予備校を変えて受ける講座を夏期・冬季の講習だけにしてみたり、朝から図書館で5時間勉強をして夕方に帰宅してから立体構成・色彩構成などの課題を自分でこなして父親に講評してもらったりするなど、2浪目と違うやり方も積極的に取り入れたことで、モチベーションを切らさず受験に臨むことができたそうです。

そしてこの年、ついに3浪の末、あららぎさんは東京藝術大学美術学部デザイン科に合格しました。

「この年は自分のスタイルが定まったから大丈夫だという自信がありました。東京藝大の試験でも、人生最高のデッサンが描けましたし、『もっとこの時間が続かないかな』と思えて、受験が終わることが寂しくなりました」

3浪して、途中心がボロボロになりながらも、最後は後悔なく受験を終えることができたのです。

私はあららぎさんの話を聞く前、東京藝大には生まれつき芸術の才能に恵まれた人々が行くイメージがありました。しかし、この取材を通して、彼・彼女たちは確かに”努力の天才でもあるのだ”と感じられました。

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