育休世代のカリスマが、会社を"降りた"ワケ あの話題の筆者が陥ったジレンマ

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「当面」とは言っても、これで、「これから2人目産んで…」「子どもが小学校にあがったら小1の壁にぶつかって…」などとやっていたら、向こう10年くらい、新たな挑戦はしにくくなっていきます。見事に「本人の希望どおり」「自分で選択したこと」によるマミートラックに塩漬けの出来上がりです。

こうして、私はサラリーマン記者としてのキャリアに展望が描けず、退職を決意しました。自分がいた会社を変えることはあきらめてしまいましたが、企業に伴走しながら変革を促すChangeWAVEという会社に参加することにしました。ダイバーシティ推進などの分野で専門性を生かして発信ができたらと思っています。

長時間総合職の前提では無理

子どもができると、生産性は上がる。これは多くのワーキングマザー(ファザー)が実感していることだと思います。でも、生産性モデルによる生存戦略は、まず「生産性高く、かつ長い時間働ける」というサイボーグ的な人には勝てないという難点があります。

そして、上で書いたような、新しい領域に挑戦しにくくなるという問題点がある。

専門職や職務採用の外資系企業、あるいは残業がない会社では、これは問題にはならないかもしれません。でも、ザ・日本のカイシャの総合職で、まだ畑も定まっていない若手社員には、この点はけっこう致命的です。

少なくとも、「致命的だろうなぁ」と思わせる構造はある。40~50代の先輩方からは「もっとキャリアを長い目で見て、焦るな」とも言われますが、長い目で見るからこそ、展望が描けなくなってしまうのです。

「仕事で負けたくない」「子どもの時間も確保したい」なんて、そりゃ両方望むのは無理だろうと思われるかもしれません。でも、この2つの両立が難しくなってしまうのは、以下のような前提条件があるからではないでしょうか。

① 企業の総合職が部署異動をしながらジェネラリストとして育ち、評価されるという前提
② 社内、業界内の競争相手は長時間で働いているという競争条件

この前提条件の下で、時間制約があっても、ある意味、公平に評価されるだろうという予測がたつ中で、「キャリアは本人の希望を重視した自己選択であり、それゆえに伴う結果も自己責任である」となれば、チャレンジングなキャリア形成はしにくくなります。

もちろん、会社や上司の側がうまく期待をかけて挑戦させていく風土、そしてそのためのバックアップ態勢、サポートの仕組みがあればこの限りではありませんでも今は、企業側も育児中社員にどこまで負荷をかけたらいいか試行錯誤をしていますよね。

まあ、そんな使いにくいやつは勝手に辞めていったらいいじゃないかと思われるかもしれませんね。そうしてパイオニアは増えず、「女性活用は失敗する」(『「育休世代」のジレンマ』の副題)わけです。

では、育休世代が会社を変えるパイオニアになっていくのは不可能なのでしょうか。「生産性モデル」以外の生存戦略の話は、追って書いていきたいと思っています。また、パイオニアが増えず、女性活用が失敗するとカイシャとして何が問題なのかについても、今後、考えていきます。

中野 円佳 東京大学男女共同参画室特任助教

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なかの まどか / Madoka Nakano

東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社入社。企業財務・経営、厚生労働政策等を取材。立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、2015年よりフリージャーナリスト、東京大学大学院教育学研究科博士課程(比較教育社会学)を経て、2022年より東京大学男女共同参画室特任研究員、2023年より特任助教。過去に厚生労働省「働き方の未来2035懇談会」、経済産業省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員を務めた。著書に『「育休世代」のジレンマ』『なぜ共働きも専業もしんどいのか』『教育大国シンガポール』等。

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