「うーん……」
男が腕組みをして首をひねって考え込む。毎回、こうなる。
質問の内容はどれをとっても簡単なものではない。
一問目の、一人だけ助かる部屋に入るか入らないか? に始まり、借りていたものを返すか返さないか、結婚式をあげるかあげないかなど、多岐にわたる。なんでもないような質問だが、普通なら考えるのを先延ばしにしてしまいがちな内容が多い。直面する問題を「明日世界が終わるとしたら……」という条件で選択しなければならない。
しかも、答えはどれも二択である。
する、か?
しない、か?
イングランドの劇作家ウイリアム・シェイクスピアの「ハムレット」という作品にこんな有名なせりふがある。
生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ……
一人の人間の「する、しない」の迷いの物語
これは、叔父に父を殺されたハムレットが復讐を「するか、しないか」で苦悩するシーンで語られるせりふである。叔父は自分の欲のために実の兄を毒殺し、国王の座を奪い、兄の妻、ハムレットの母を妃とする。叔父はこの物語の中ではまぎれもない絶対悪である。その事実を知ったハムレットが、一切迷うことなく、すぐにでも復讐を果たしていれば誰も不幸にはならなかった。しかし、ハムレットは迷う。亡霊の言葉を信じていいのか、悪いのか?
めんどくさい争いに身を投じるのか、それとも素知らぬふりで安穏と生きるのか?
つまり、この話の肝は優柔不断なハムレットの性格にある。
迷っているうちに、最愛のオフィーリアを失い、関係ない人物を死なせ、かつての友に命を狙われて、母も毒殺、挙げ句の果てに自分も叔父も死んで、国すら乗っ取られる。
この劇作はまともに上演すれば四時間を超える超大作となる。しかし、その根源を紐解けば、一人の人間の「する、しない」の迷いの物語と言える。
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