過去に戻れる喫茶店、失踪した相方待つ男の一言 小説「思い出が消えないうちに」第2話全公開(2)

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お笑いコンビ
グランプリを獲得して夢をかなえたはずの男はどこへ?(写真:Fast&Slow/PIXTA)
世界35カ国で翻訳、シリーズ320万部を突破している小説『コーヒーが冷めないうちに』。世界中で話題のシリーズを東洋経済オンライン限定の試し読みとして16日に分けて配信。シリーズ3作目『思い出が消えないうちに』の第2話『「幸せか?」と聞けなかった芸人の話』の第2回をお届けします。
(1):過去に戻れる喫茶店、通い詰めるお笑い芸人の男(1月8日配信)

「世津子に会うために」

「私は、あいつがここに来るかもしれないと思って待ってたんです」

「その、失踪なさった方をですか?」

「はい」

林田は数の問いかけに、視線を落としたまま答えた。

「なぜ?」

これは沙紀の質問である。

どうして失踪した相方、轟木がここに来るかもしれないと思ったのか、と……。

「世津子に会うために」

「それは、誰ですか?」

沙紀が続ける。

「五年前に亡くなった、あいつの奥さんです」

つまり林田は、失踪した轟木が五年前に亡くなった世津子という奥さんに会いに来るのを、ここで待っていたということになる。

だが、しかし、そうだとしたら、

(轟木もこの喫茶店の噂を知っているのか?)

(知っていたとして、なぜ、林田は轟木がここに来ると思ったのか?)

(そもそも、轟木の失踪と五年前に亡くなった奥さんは関係があるのか?)

(そして、なぜ、林田は轟木を待っているのか?)

という疑問が残る。

これは、その場にいる沙紀や玲司が漠然と感じた疑問である。

林田はその疑問の答えをぽつりぽつりと語り出した。

「私と轟木、そして世津子は、この街で育った小学校からの幼馴染でした」

つまりは、地元の人間である。であれば、ここが過去に戻れる喫茶店であることを、そして、ルールについてくわしく知っていてもおかしくない。もしかしたら、今は渡米していて不在だが、この喫茶店の店主である時田ユカリとも顔見知りである可能性だってある。

次ページ話は続く
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